ホーム > 日本語を楽しむ > 日本語ひとくちエッセイ > 世界から見た日本語コミュニケーション(5)「うなぎは一体何匹、何串?」

日本語ひとくちエッセイ

世界から見た日本語コミュニケーション
荻原 稚佳子

2013年8月

「うなぎは一体何匹、何串?」

8月に入り、毎日暑い日が続いています。今年は梅雨明けも早く、7月からこう暑い日が続くと、さすがに夏バテ気味で食欲も落ちてきます。こんなときに食べたくなるのが、うなぎですね。私はうなぎが好物の一つで(といっても、嫌いなものがないのですが)うなぎを焼く香ばしいにおいに、思わずふらっとうなぎ屋さんに吸い寄せられてしまいます。ただ、ここ数年、うなぎの稚魚が減少しているとかで、夏の気温だけでなく、うなぎの値段もまさにうなぎ登り。スーパーでうなぎのパックを手にとっては、値段を見て、買おうか買うまいか、国産か外国産か、1匹にするか1串にするか、と迷ってしまいます。「こんなに小さくてこんな値段?!」と、手に取ったうなぎのパックを売り場に戻したこともありました。
 「ああ、ふっくらと厚みのあるうなぎを2串くらい思いっきり食べてみたいなあ」と、こうして書いているだけでも、うなぎが食べたくなります。

 こんなことを考えていたときに、ふと気がついたことがあります。同じうなぎですが、1匹とも数えますし、1串とも数えます。生きているうなぎは1匹、2匹ですが、串に刺してかば焼きになったら1串、2串。うな重に乗っているうなぎは「並みより特上のほうが1切れ多い」などのように、「切れ」で数えます。同じうなぎでもこんなにたくさんの数え方があるのです。
 このような「匹」「串」「切れ」「本」「枚」などを助数詞と言いますが、日本語には、助数詞の種類が非常に多くあります。しかも、助数詞はとても細かく使い方が分かれていて、非常に複雑なのです。
 たとえば、最近、同じ職場の先生から聞かれたのですが、マグロは一体いくつの数え方があると思いますか。いくつくらい思いつきますか。気になったので、『数え方の辞典』(小学館)を調べてみました。
 まず、マグロが生きているときは「匹」で数えます。けれども、魚市場に運ばれて売り買いされるときには、「本」で数えます。そして、魚屋に運ばれ、頭と尾が切られ、それを骨と身に分けて半身にし、それをまた半分にすると「1丁」と数えるそうです。それがスーパーなどで、調理しやすいように、ブロック状に切った状態になると「柵」で数えます。その1柵を、さらに、家庭で焼いたり煮たりして出せるように「1切れ」ずつに分けて切って、パック詰めされることもあります。もちろん、それらの商品は「1パック、2パック」と数えます。同じマグロでも、その形状に応じて、使われる数詞はどんどん変化していくのです。
 このように、基本的に助数詞はその物の形状によって決まってきます。ですから、同じ魚でも、細くて長い形状のうなぎやサンマは「匹」ではなく「本」ですし、平らなカレイやヒラメは「枚」で数えます。魚以外でも、ゾウや馬のようなおおきな動物は「頭」ですが、比較的小さいと「匹」ですし、紙は「枚」で数えますが、本やノートのような紙をまとめたものは「冊」。大きな機械類は「台」で、小さな機械や部品は「個」です。また、音楽は「1曲、2曲」と数えますが、交響曲や歌詞のある曲なら「1番、2番」と数え、それがCDになると「1枚、2枚」となります。

 このような助数詞は、日本語を学ぶ外国人にとって、煩雑で非常に難しいものの一つとなっています。だいたい初級の前半で助数詞を教えることが多いのですが、学習者からは、いちいちどう数えるのか考えてもわからないし、調べても使い方を間違えることがあるとよく言われます。

 さらに、学習者の頭を悩ませるのが、その読みかたです。「枚」なら「ろくまい」「はちまい」なのに、「匹」なら「ろっぴき」「はっぴき」「じゅっぴき」と促音になり、「冊」なら「さんさつ」なのに、「階」や「足」だと「さんがい」「さんぞく」と濁音になり、数字によって音変化します。これらは変化するルールがあるので、まだいくらか規則として覚えられます。しかし、「つ」になると、「ひとつ、ふたつ、みっつ」と「いち、に、さん」とは全く異なる数え方になり、全部覚えるしかありません。これは、数詞に「ひと、ふた、み、よ」などの和語系と「いち、に、さん」などの漢語系があるからです。また、「一日」と書いてあっても、毎月の始めの日を表すときは「ついたち」で、ある日の24時間、終日を表すときは「いちにち」です。覚えても覚えてもいろいろな言い方や読み方が出てきて、もし、私が日本語学習者だったら、ちょっと嫌になってしまいそうです。

 けれども、日本語母語話者であれば、何も迷うことなく、「ついたち」と「いちにち」の使い分けができますし、特に勉強しなくても、大体ですが、どんな数詞を使えばいいかも想像がつきます。母語が日本語でよかったと感じる瞬間ですね。土用の丑の日には、皆さんもうなぎを「一串」いえ「一匹」食べて、夏バテを解消してみてはいかがですか。

荻原 稚佳子
慶応義塾大学法学部、ボストン大学教育学大学院を経て、青山学院大学大学院国際コミュニケーション専攻博士課程修了。明海大学外国語学部日本語学科准教授。専門は外国人への日本語教育、対人コミュニケーションの言いさし(文末を省略した発話)、語用論。著書に、『言いさし発話の解釈理論―会話目的達成スキーマによる展開―』(春秋社)、『絵でわかる日本語使い分け辞典1000』(アルク)、『日本語上級話者への道―きちんと伝える技術と表現』(スリーエーネットワーク)などがある。
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