随時更新中!レフト鈴木の日本語お笑い道場

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 皆さん、こんにちは。レフト鈴木です。突然ですが、先日気になるニュースを見かけました。『広辞苑』が10年ぶりに改訂されたのは皆さんもご存じだと思いますが、意味の説明が変わった語の中に、以前このコラムでも紹介した「爆笑」(第6回「正しい意味で使ってみよう(その1)」参照)も入っていた、というのです。
 「爆笑」のこれまでの語釈は「大勢が大声でどっと笑うこと」(『広辞苑(第六版)』)といったものが一般的で、「一人で爆笑した」というのはよくある誤用とされてきました。しかし、今回の改訂で「爆笑」の説明が「はじけるように大声で笑うこと」に変わり、人数に関する記述はなくなっているそうなんです。つまり「一人で爆笑する」はもう誤用ではないんです!
 確かに「爆笑」って聞いたら、やはり大声で笑っている人をただ思い浮かべる方がほとんどでしょうし、そこに人数の概念は特になくていいんじゃないかとも思います。このように、言葉の意味は時代とともに変わっていくものですから、それに合わせて辞書の記述を変えることには、基本的に僕は賛成です。その言葉が人々の間で広く使われ、親しまれているのであれば、無理に使い方を直させるより、意味の解釈そのものを変えてしまった方がいい場合もあると思います。
 しかし、当然ですが、誤用が多いからといって、何でもかんでも意味の解釈を変えていってしまうのも感心できません。僕達が普段やっているネタでもそうですが、たまたまライブでウケなかったからといって、即ボツにするのはもったいないですし、かといって何度やってもウケないネタを何も変えずにやり続けていても進歩がないですよね。残すべき部分は残し、変えていくべき部分は変えていくことで、「日本語」というコンテンツがより親しみやすいものになっていけばいいなあ、なんて思ったりしています。
 ちなみに今回の改訂で「炎上」という語句に、従来の意味に加えて「インターネット上で、記事などに対して非難や中傷が多数届くこと」という意味が追加されたそうです。そのパターンがあるのであれば、将来的に「クリオネ」の項目に「ひらがなで書いた場合、国民的大人気お笑いトリオの名前」なんて一文が追加されたら最高に嬉しいですね。あ、どうか皆さん、あくまでこれは妄想の話なので、「そんなの無理に決まっているだろ!」「調子に乗るな!」といったコメントで僕のSNSを炎上させるのだけは勘弁してくださいね。
 さて、今回はそんな『広辞苑』の改訂にちなんで、「変化」に関する言葉をコント形式でいくつか紹介していきたいと思います。題して「『変化』に関する言葉を使ってみよう!」


・「猫の目のよう(ねこのめのよう)」

物事が目まぐるしく変わる様子

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~2020年夏の日曜日の朝、ある一人暮らしの男のアパートで~

         男「ついに東京オリンピックが始まったな。どれ、適当に何か中継を見てみるか」
    アナウンサー「さあ、お待たせしました!今大会から採用された新種目『五種総合球技』。こちらは、野球、サッカー、バレーボール、バスケットボール、ラグビーを組み合わせた、まさに団体球技のオールスターのような競技になっております。さあ、日本対アメリカの試合がまもなくプレイボールです!」
         男「何だこれ?こんな種目あったっけ?」
    アナウンサー「さあ、まずは日本の中田がボールを投げた!そしてそのボールをアメリカのスミスが…蹴り返したー!すごい飛距離が出ています!しかし、これを…日本の佐藤がしっかりレシーブ、ナイスプレー!そして、そのままボールをスリーポイントシュート!ああっと!これはアメリカのジョンソンにブロックされてしまった!こぼれ球を拾ったのはアメリカのパーカーだが…これはオフサイド!日本助かりました!そして、すかさず鈴木がトラーイ&ホームラーン!」
         男「いや、何が何だか分からんわ!『猫の目のように』ルール変わり過ぎだろ!」

 猫の目は明るさによって形が激しく変わることからできた慣用句です。「猫の眼のよう」とも書きます。
 それにしても、めちゃくちゃな種目ですね。ルールも複雑過ぎて、初めて見る人は理解するのに苦労しそうです。そして何より選手達も次から次へとルールが変わって忙しそうです。まさに「猫の手も借りたい」といった状態でしょうか。もし、この競技で日本チームが勝ち、「日本、金メダル!」と言われても、いまいちピンと来ないかもしれません。それこそ見ている人の「目が点になって」しまいそうです。


・「山の芋鰻になる(やまのいも うなぎになる)」

あるはずのないことが起こることや、物事が思いがけない変化を遂げることのたとえ

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~ある町工場で~

     社長「おい!二人とも聞いてくれ!大変なことになった!」
    社員A「どうしたんですか?そんな素っ頓狂な声を出して」
     社長「田中工業さんに納品するモーターの部品5,000個なんだが、配送中のトラブルで全て破損してしまったようなんだ!」
    社員B「え!?納期は明日の朝一番ですよ!今からじゃ徹夜したって間に合いませんよ!」
     社長「かくなる上は、向こうからキャンセルの電話が入るのを全員で祈ろう!さあ、みんなで神棚に手を合わせて…」
    社員B「何を呑気なこと言ってるんですか!そんなことあるはずないでしょ!もしこれで田中工業さんとの契約が打ち切られでもしたら、うちはおしまいですよ。どうするんですか!?」
    社員A「社長!田中工業の社長さんからお電話です!」
     社長「もしもし、え!?明日からパンケーキ屋始めることになったから、もう部品は必要ない?全てキャンセル!?分かりました。…という訳で、みんな、もう大丈夫だ!いや~、まさに『山の芋鰻になる』だ。こんなことってあるんだな」
    社員A「ていうか、いくら何でも変わりすぎだろ!」
    社員B「何でバイク屋が突然パンケーキ屋になるんだよ!?」

 いくら山芋が鰻のように黒っぽくて細いものとはいえ、山芋が鰻になることなどありえない、というところからできた慣用句です。身分の低いものが突然出世する、という意味でも使われます。
 それにしても、田中工業というのはどんな会社なんでしょうか。こんなに突然業種をガラッと変えてしまうなんて、それこそ「鰻のように」掴みどころのない会社ですね。「実はカフェも始めたくて」とか「クレープ屋も開こうと思ってます」のように、田中社長の願望が今後も「芋づる式」に際限なく広がりそうな予感がします。


・「所変われば品変わる(ところかわれば しなかわる)」

土地によって習慣や言葉などが違うということ

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~あるカップルの新居での会話~

    女「今日からついに同棲スタートね。楽しみだわ」
    男「そうだな。いい部屋もみつかって良かったよ。ところで、さっきから気になっているんだけど、なぜ室内なのに靴を履いているんだい?」
    女「あら、ごめんなさい。私の地元では家の中でも土足だったから」
    男「え?地元、海外だっけ?」
    女「ううん。日本だよ」
    男「日本なのに土足?ちなみに何県?」
    女「ちょっと待って!ピッ、ピッ、ピッ、ポーン!」
    男「え!?何?どうしたの?」
    女「あ、ごめんね。私の地元ではお昼の12時ぴったりに必ず時報を鳴らすことになっているの。ゴーン、ゴーン…」
    男「えっ?自分の口で言うの?…ちなみに日本のどこ…」
    女「うんぎゃー、おんぎゃー、はんぎゃー♪」
    男「今度は何?」
    女「あ、ごめんね。私の地元では12時の時報の後に『萩谷村賛歌』の一番を歌うことになっているの。午後1時の時報の後は二番を歌うからよろしくね」
    男「いや、『萩谷村』ってどこだよ!?日本のどこにそんな風習あんだよ!?『所変われば品変わる』にも程があるだろ!」

 土地が変われば生活習慣も変わるという意味のことわざで、同じ物でも土地によって呼び方や使い方が変わる、という意味でも使われます。
 それにしても、習慣のすれ違いって怖いですね。育って来た環境の違う男女ですから、一緒に住んでみないと分からないことは多々あるとは思いますが、ここまで違うと同棲を決めたことを後悔してしまいそうです。しかし、これも彼女の個性と捉えれば、また一つの魅力かもしれません。だって、品が変わって他に類を見ない別の物になるということは、彼女は本物の「別品(べっぴん)さん」ということですから。
 ※「べっぴん」の正しい表記は「別嬪」です。レフト鈴木のせいで間違って覚えて恥をかいた!と言われないように、一応、註を入れておきます。


 さて、今回は「変化」をキーワードに慣用句を紹介してみましたがいかがだったでしょうか?次回40回目を迎えるこの連載も、まだまだ長く続けられるように、色々と試しながら少しずつ変化を加えていけたらいいなと思っています。ただ、その中で「あれ?これ『変化』しているっていうより、ただただ『変』な文章になってないか?」ということがあったら、すぐに教えてくださいね!

レフト鈴木

1987年埼玉県生まれ。千葉大学卒業。お笑いトリオ「くりおね」ツッコミ担当(ワタナベエンターテインメント所属)。フジテレビ「日本語探Qバラエティクイズ それマジ!?ニッポン」、テレビ朝日「GURIGURIくりぃむ」「『ぷっ』すま」、TBS「有吉ジャポン」、チバテレ「Girl’s Pop’n Party」「おはYo! HIテンション」等に出演。日本語検定1級に過去4回認定。
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