上田まりえ「ことばのキャッチボール」

 未だコロナ禍ではあるものの、ようやく街中に賑わいが戻ってきた2022年。2年半ぶりに友人たちに会ったり、毎週のように出張があったり、一気に活動量が増えたように思います。当たり前ではなくなった当たり前の尊さを、改めて感じた一年でした。

 人と直接話す機会が増えることで、ことばに温度を感じられることもうれしく思いました。もちろん、文字から伝わる温度もありますが、声に乗ることで「ことばも生きているのだ」と感じます。人と話すって、本当に大切なことですよね。

 私は今年、自分の年齢の半分くらいの人たちと接する機会が多くありました。その中で、今年最も衝撃を受けた一言がこちら。

今度“すきぴ”とデートに行くの〜♡

 甲高くて甘〜い声、そして耳慣れないことばに、反応せずにはいられませんでした。

「すきぴ」、みなさんはご存知ですか?

すきぴ(名)

〔俗〕好きな人。「すきピープル」の略。基本的に、女性が男性に対して使う語。
彼氏のことを指す場合もある。

 辞書に記すのであれば、こんな感じでしょうか。インターネットで調べたところ、どうやら2018年頃から10代の若者たちに使われるようになったことばだそうです。

 36歳の私は、“すきぴ”への好きの温度がわからず、返答に困りました。

「好きな人」より「気になっている人」という意味なのか?
「好きな人」をあだ名感覚で呼んでいるのか?
 LOVE(ラブ)よりL I K E(ライク)の意味に近いのか?

 そこで、すきぴとデートに行く予定の彼女に「その彼のことは、どのくらい好きなの?」と(とても失礼な)質問をしたところ、「本気で好き♡」との返答がありました。ことばの響きはポップに聞こえるけれど、込められている想いは真剣そのもの。世代が違う人と話す際には、意味が変わってしまうことを念頭に置いておく必要がありそうです。このような読み取りが難しいことばは、年々増えているように思います。

 ちなみに、私が通っているジムには大学生の男の子がたくさんいるので、トレーニングの合間に調査を行いました! 女の子が言っているのはよく聞くけれど、男の子同士では使わないのだそうです。また、「彼女が自分のことを“すきぴ”と言っていたらどう思うのか」聞いたところ、一様に「いやっす!」との答えが返ってきました。どうやら、同年代の中でも男女間で捉え方が違うことばであるようです。

 調査を進める中で、「かれぴっぴ」ということばがあることも知りました。

かれぴっぴ(名)

〔俗〕友達以上、恋人未満の男性を指す語。

 比較的耳馴染みのある「かれぴ」は「彼氏」の意味なのですが、なぜか「かれぴっぴ」は「友達以上、恋人未満」の意。つまりは、【 すきぴ < かれぴっぴ < かれぴ 】の順で親密度が変わってくるのだそう。今までの人生の中で一番難しい不等式に出会ってしまった2022年。「すきぴ」とは何かを考える時間が長かったので、皆様にご紹介した次第です。来年はどんなことばに出会うことができるのか、今からとても楽しみにしています。

 12月に入り、年末に向けてラストスパート! 年末まで慌ただしい日々を過ごすことになると思いますが、この一年を振り返る時間もしっかり取りたいところ。今年、あなたの心に残ったことばや気になったことばは何ですか? もしよかったら、教えてくださいね。

上田まりえ

タレント、日本語検定委員会 審議委員

1986年9月29日、鳥取県境港市生まれ。2009年、専修大学文学部日本語日本文学科卒業後、日本テレビにアナウンサーとして入社。2016年1月末に退社し、タレントに転身。現在は、タレント、ラジオパーソナリティ、ナレーター、MC、スポーツキャスター、ライターなど幅広く活動中。また、アナウンススクールとSNS・セルフプロデュースについての講師も務める。2019年、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程1年制コース修了。
2021年7月14日には「知らなきゃ恥ずかしい!? 日本語ドリル」(祥伝社黄金文庫)を上梓。