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マンスリーコラム

その日本語,相手を不快にします 8
川本 信幹(日本語検定委員会研究主幹)

2010年7月

先程も申し上げましたように

こちらが出不精になると、金もないのに銀行の営業の方がしきりに顔をお見せになる。顔見知りの方だと、むげに玄関払いを食わせるわけにもいかないか ら、粗茶一杯分のお付き合いくらいはすることになる。

 

同じ営業でも、ベテランならば、あまり気に障る言葉遣いをする方はないが、若い方の中には、手帳一ページが埋まるほどおもしろい話題を置いて行かれる場合がある。

 

その一つに「先程も申し上げましたように」がある。

 

頭のよく回転する営業部の方にとって、老齢の客はよほど頼りなく見えるのであろうか、十分程度の面談中、三回も四回もこの言葉を発する人がいる。

 

言っている本人は、単なる確認のつもりかも知れないが、客によっては、「私はそんなにぼけてはいないぞ」と不愉快に思うかも知れない。


そんな言葉を発するくらいなら、初めから必要な印刷物を広げて、重要個所に赤線を引きながら説明するとか、数字を丸で囲むとかすればいいのである。
近年、さすがにご縁がなくなったが、かつて生命保険の勧誘に見える方の中に、この言葉をやたらと使う方があった。

支社ナンバーワンの営業成績を上げていると評判の勧誘員の女性に、「あなたは、こういう言葉を勧誘中に使いますか」と聞いてみたことがある。

「後で無意味な確認をしなくてもいいように、話題ごとに、項目ごとに丁寧に説明し、その都度質問を受けるようにしています」というのがその方の返答であった。

人によっては、相手が言う「先程申し上げましたように」という言葉の裏に、自分の聞き取り能力、理解力、認識力に対する不信感が隠されているように感じるものである。 

したがって、この言葉は、客の勧誘、自社製品の説明会、社内でのプロジェクトの説明などの場面では、できるだけ使わないようにすることが肝要である。
特に上司に対して報告や説明をする場合は、要注意である。


「そんなことは、改めて言われなくてももう分かっているよ」


「くどいくどい。説明は一回ですむようにしろ」


などと叱られるのが落ちである。


職種のいかんにかかわらず「先程申し上げましたように」を使わない確認表現を工夫しよう。


 

川本 信幹(日本語検定委員会研究主幹)
最近著に「みがこう,あなたの日本語力」(東京書籍)
「生きるための日本語力」(明治書院)など。
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