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マンスリーコラム

その日本語,相手を不快にします 9
川本 信幹(日本語検定委員会研究主幹)

2010年8月

大丈夫だけでは大丈夫でない

「おい、今日中に企画書を出してくれよ」と上司に言われて「大丈夫です」と答える若い社員がいる。

上司は何か言いたそうであったが、言葉を呑みこんだようである。下手に注意して会社を止められても困ると思ったのであろうか。

 

先日、我が家を訪れた若者が「食事を食べていきませんか」と問われて「大丈夫です」と応じた。

問いかけた連れ合いは、若者が断ったものと理解して食事を出さなかったが、その後随分長居したところを見ると、食事をしていってもよいという意味で「大丈夫」を使ったのかも知れなかった。

前者の場合、上司は部下が安直に「大丈夫です」と答えたことに引っかかったのであろう。

上司が想定した答えは、次のようなところであったろう。


「かしこまりました。必ず今日中に提出いたします」
「かしこまりました。あらましできておりますので、後二時間ばかりで提出いたします」
「承知しました。五時までに必ず提出いたします」


理屈っぽい社員ならば「恐れ入りますが、今日中とは勤務時間中でしょうか、残業してもよろしいのでしょうか」などと問い返したかも知れない。「大丈夫です」などと安直に答えるより、このほうが上司を安心させるかも知れない。むろん上司は「当然勤務時間中だ」と念押しするに違いない。


言うまでもないが、このような仕事に関する指示への応答には、復唱(復誦)の意味が含まれていることが望ましい。

後者の場合は、「いえ、結構です。友人と夕食の約束がございますので」と答える(かりに約束がなくても、そう答えてさっさと失礼する)。

また、遠慮の要らない訪問先なら、「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
くらいのことは言ってもよい。


昭和時代末年ころから日本語力の低下が言われてきたが、近年、語彙力の低下、表現力の低下が目立ってきた。乏しい語彙でも、上手に使えば正しく意志や事柄を伝達できるが、 「大丈夫です」とか「結構です」は、使い方によっては相手の誤解を招くことになる。


「大丈夫」だけでは必ずしも「大丈夫」ではないのである。

 


川本 信幹(日本語検定委員会研究主幹)
最近著に「みがこう,あなたの日本語力」(東京書籍)
「生きるための日本語力」(明治書院)など。
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