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マンスリーコラム

その日本語,相手を不快にします 17
川本 信幹(日本語検定委員会研究主幹)

2011年4月

強調も度が過ぎると

自信のある事柄、確信の持てる内容を人に伝える場合には、自然に、強い表現を使いたくなります。
 例えば、次のような使い方をしばしば耳にします。


①この商談は1〇〇パーセント成立します。 

②交渉の再開は1〇〇パーセント間違いありません。 

絶対にそういう故障は発生いたしません。

あらゆる可能性を想定して完全に検査してあります。


ところが、この強調表現は、必ずしもプラスに作用するとは限りません。

①の例は、我が家に出入りする大企業の若い社員が、上司の課長に叱られた例として提供してくれたものです。課長の言葉をまとめてみると次の通りです。


「君の商談の相手は、君と同じ立場の営業部員だろう。小さな取引でも課長の承認は必要だ。場合によっては部長の判も必要だろう。取引額によっては執行役員に上げなければならない。社運を決するほどの大取引ならば社長の決裁が必要となる。だから、君が私に報告する段階で1〇○パーセントなどと言えるわけがないんだよ」


課長は続けます。


「今回は、身内相手だからいいが、お客相手だとこうはいかないぞ。どこかの営業部員が小売店で『わが社の製品には絶対に間違いありませんから』と言ったら、数日後にその製品の中に縫い針が入っていたという事故があった。営業部員が信用を失ったばかりでなく会社自体が窮地に陥ったわけだ」   


課長の言葉から言えば、「絶対に」は「1〇〇パーセント」の延長上にある言葉ですから、③のような言い方はそれこそ「絶対に」避けなければならないわけです。

④に使われている「あらゆる」も「完全に」も「1〇〇パーセント」の類義語に当たります。この例は、ある会社のお客様相談室の女性社員の応答です。私はいささかの不快感を覚えただけでしたが、電話の主がもし悪質なクレーマーだったら大変な言質を与えることになります。


蛇足を一つ。我が家の南に府中競馬場があります。「的中率は1〇〇パーセントだよ」と叫ぶ予想屋に客は寄らず、「5人に4人はご機嫌だよ」と呼び掛ける予想屋には人が群がっているのは何か暗示的です。

 

 

川本 信幹(日本語検定委員会研究主幹)

最近著に「日本語 鵜の目鷹の目烏の目」、「みがこう,あなたの日本語力」(以上、東京書籍)、「生きるための日本語力」(明治書院)など。

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