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審議委員の言葉

五木 寛之

日本語とは,ことばとは,ほんとうに難しいものだと,40年以上もことばとともに仕事をしてきて,今つくづくとそう思う。ことばは唯一自分をささえてくれる味方であり,時には,格闘する相手でもあった。考えれば奇妙な関係である。

正しいことば,美しいことば,というものは,もともとどこかに存在していたわけでも,ましてや誰かがそうと決めて出来たものではないだろう。ことばは,人の歴史とともに,無数の人々のくらしのなかで,生まれ,紡がれてきた。ひとつひとつのことばに,これまでに生き,死んでいった無数の人々のこころと人生がこめられている。人の思いが,ことばをつくってきたのだ。正しいことば,美しいことばは,どこにも存在しない。幻のようなものだ。しかしだからこそ,われわれは,美しいことば,正しいことばをさがし求めずにはいられないのだ。

審議委員として微力ながら力を尽くしたい。

宇佐美洋

外国人に対する日本語教育に携わっていると,ことばの形の正しさ,というより,ことばの働きの適切さ,ということの方がずっと大切であることに気づきます。

規範にかなった正しい表現が,かえってよそよそしい印象を与えてしまったり,文法的にはむちゃくちゃな表現であっても,話し手の切実な気持ちが明確に伝わり,聞き手の心が強く揺さぶられる,ということがあったりもします。前者は「正しいけれど不適切」な表現,後者は「正しくないけれど適切」な表現,ということになります。

もちろん現実の社会生活の中では,「正しいから適切」「正しくないから不適切」ということが圧倒的に多いので,現在の世の中で正しいとされていることが何か,わきまえておくことは必要です。しかし,正しさは時代によって変わりうること,正しさと適切さとは必ずしも一致しないことに気づくのもまた,社会人として非常に大切なことです。

あることばづかいが「正しいかどうか」は,辞書や文法書で確かめることができますが,「適切かどうか」は,自分のことばづかいに対し周囲の人が示す反応を見て,自分の頭で判断するしかありません。その判断は,正しさの判断より実はずっと難しいのです。

この日本語検定が,ことばの形の正しさだけでなく,ことばの働きの適切さに対しても目を向けていくためのきっかけになれば,と願っています。

梶田叡一

言葉は,私達が生きていく上で一番土台になるものです。言葉の力が十分にないと,きちんと考えることができません。他の人達と気持ちや用事を伝え合うことができません。昔の時代から伝えられてきた大事なことを受け継ぐこともできません。言葉が使えるということこそ,他の動物達と人間とを分ける大きな違いでもあるのです。

言葉は世界中に数多くあります。しかし,日本で生まれ,日本で育ってきた人にとっては,日本語が土台になります。母語としての日本語の力が十分でないまま,いろいろな言葉を学んで会話できるようになったとしても,考える力は不十分なままになります。

日本語は長い年月を掛けて磨き上げられてきた言葉です。どの水準まで日本語の力がついているか,この日本語検定によって総合的に確かめてみてください。もちろん,外国で生まれ育った人が2番目3番目の言葉として日本語を学ぶ場合にも,その本当の上達の程度を,この日本語検定で確かめてみていただきたいと思います。

梶原しげる

週に1日だけですが、社団法人日本青少年育成協会相談室でカウンセリング業務を担当しています。第一に心がけていることは、クライアント(相談者)の話に耳を傾け、その言葉から、背後にある苦しみや、怒りや、もどかしさという本音を感じ取ること。このとき求められるのは、今語られている言葉に集中し、それを映像化して、クライアントと思いを共有することです。悩みを抱えて来談する人の中には話が混乱している場合があります。相手の思いに沿って、聞き返したり、繰り返したりするうち、話の中身が整理されていきます。話が整理されるだけで、悩みの何割かは解消されていくようです。我々は、くよくよ悩んだりするとき、頭の中で言葉が堂々巡りをしていることがしばしばあります。自分の心が発しているもやもやした思いを、論理的に矛盾しない日本語で記述できるとすっきりするものだということを、クライアントのケースだけでなく、自分の問題でも実感することが少なくありません。日本語能力は悩み解消の基本ツールとして、とても大事なものです。こんな観点からも、日本語検定審議委員として微力を尽くしていきたいと考えています。

川村二郎

「正しい日本語」を孫たちに

朝日新聞社にいたおかげで司馬遼太郎さんや白洲正子さんをはじめ錚々たる方々から,日本語について文章について,学ぶことができた。僕が曲がりなりにも日本語が使えるようになったのはそういう方々のおかげだが,ある時期から,学んだ成果を独占しているのは申し訳ないし,第一もったいないと考えるようになった。それでカルチャーセンターや朝日の夕刊紙面で作文の添削の仕事をしたのだが,痛感したのは,日本が国語教育をいかに粗末にしてきたか,その結果,日本語の不自由な日本人が何と多くなったのか,ということだった。そもそも英語力の検定制度があるのに,正確な日本語の尺度となるものがない。それがおかしかったのだ。この日本語検定によって,日本語を自在に操れる,日本語の使い手が一人でも多くなることを願ってやまない。

草刈隆郎

企業人にとって最も必要な能力のひとつが「日本語力」です。 企業人にとって最も必要な能力のひとつが,状況に応じて人とコミュニケーションをとる力だと思います。この能力を向上させるのに,どうしても避けて通れないのは,正しい日本語の運用能力を身につけることです。自分の思うことを相手に正確に伝える力,相手の言うことを正確に聞きとる力,その両方の力を兼ね備えていることが,今,強く望まれています。

日本語検定は,楽しみながらこれらのニーズに応えることができる最適な手段だと思います。国際化が進むなかで英語をはじめとした外国語の取得は重要ですが,それ以上に,先ずは日本語の語彙力,敬語の力など日本語力も身につけることが,バランスの取れた企業人として必須の条件となってきます。多くの企業関係者が,この日本語検定をきっかけに,言葉,日本語を意識するようになり,コミュニケーション能力を向上させることを期待しています。

倉持保男

大学で日本語学を担当していたころのことである。講義の合間に時折り日本語の常識テストを試みた。その一つを紹介しよう。受講生約50名(8割以上が日本語日本文学科の学生)の教室で,「日ごろ私淑する先生から年に数度御指導を賜っている」という一文を示し,この表現に違和感を感じる点はないかと問いかけたのである。大多数の学生は全くない,また,よくわからないと答えた。「私淑する」の意味がわからない,あるいは自分の理解に確信が抱けなかったようだ。「私淑」の「私」から個人指導をする,または受ける意味だと推測した学生の多いことが後にわかった。

我々が日常正しく理解し,適切に表現していると思っている日本語でも,人それぞれの思い込みや勘違いから,とんでもない誤解・誤用をしていることが少なくないようだ。思い込み・勘違いの世界から脱却する上で,日本語検定は格好の機会であると言えよう。積極的にチャレンジされんことを期待したい。

平野啓子

最近,テレビのバラエティ番組を見ていて感じることの一つに,売れているタレントさんは,語調は丁寧ではないけれど,言葉遣いはしっかりしているということがあります。

言うまでもなく人間の話し言葉は,言葉そのものを伝えることが目的ではありません。言葉の意味を媒介にして,相手に意図を伝えることが目的です。そのとき,聞き手の注意が話し手の言葉遣いの誤りに向いてしまったり,まして,意図がとらえられず戸惑ってしまったりしたら,もう目的を果たしていないことになります。何の抵抗もなく,すんなりと相手の頭と心に入っていく話し方のできることが最も理想的であり,それは,言葉の選択,言葉と言葉の連接など,基本的なことができていて初めて可能になります。

携帯電話やメールの登場が,私たちの言葉が社会に晒される機会を少なくし,規範性や社会性を危うくしていることは否定できないでしょう。この検定が,こうした面について,自分の言葉を見直すきっかけになればと思います。

山内純子

「日々私たちが使っている日本語は美しいだろうか?」こんな疑問から,ANAグループでは数年前に美しい日本語に対する取り組みを行いました。「ことば」は,お客様を大切にする「心」を表現する重要な要素です。勿論,心を込めて言葉を使うことは大切なことです。正しい言葉を使わなければ相手に気持ちが伝わりません。しかし,正しい日本語を使うことは思っている以上に難しいことです。日頃から正しく言葉を使っていないと,とっさの時に口から出てまいりません。現代を生きる私たちが目指すのは,その場に合った正しい言葉を,心を込めて使うこと。そのことが『人に思いを伝える』ことに繋がってゆくのではないでしょうか。日本語検定が「正しく美しい日本語」に役立つことを願ってやみません

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