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マンスリーコラム

その日本語,相手を不快にします 7
川本 信幹(日本語検定委員会研究主幹)

2010年6月

生兵法は大怪我のもと

「生兵法は大怪我のもと」ということわざをご存じであろうか。

 

現代流に言えば「十分身についていない知識や技術に頼るととんでもない失敗をする」ということである。

 

今回は,そのような例を挙げてみる。


役不足ですががんばります

 

過日(といっても一昨年),日本国中知らない人がいないという大企業の総務担当役員と言葉を交わす機会があった。

 

「実は,会社の新人歓迎会に出ましたところ,新人代表が,なんと『わたくしども新入社員一同,役不足ではありますが,会社のために全力を上げてがんばります……』ときたのには驚きました」

 

「いや,『役不足』の勘違いは,若い者だけではありませんよ。私の 若いころ,着任した校長が『役不足ではございますが,校務運営のため全力を尽くしますので,ご協力のほどよろしくお願いします』とやりました。むろん,国語科出身の校長でありませんでしたがね」

 

「ところで,近年の学校の国語科では『役不足』を教えないんでしょうか」

   

「小学校から高等学校までの国語教科書を通して制作しているのを調べたことがありますが,『役不足』は扱われていません。慣用句・ことわざ・故事成語などをある程度取り上げてはいますが,全体からすれば,ほんの少々といったところでしょう」


編集者も見逃す「役不足」の誤用

 

その役員氏には言わなかったが,もっとひどい話がある。

 

ある本の前書きの締めくくりとして「わたくしごとき役不足の人間を傍において仕事をさせていただいた○人の○○に改めて感謝の意を…」という表現があった。(ご本人の文章かゴーストライターの文章かは分からないが,事情あって伏せ字を使わせていただく) 

 

その本の奥付を見ると「校正 ○○○○」と明記してある。

 

ということは,専門の校正者の厳しい目をくぐっているということである。近年の校正者の中には『役不足』程度の慣用句の誤用さえ発見できないほどの日本語力しかない人もいるのであろうか。

 

その出版社,しばしばベストセラー本を出すほどの老舗なのに,編集部員は,前書きすら目を通さないのであろうか。

川本 信幹(日本語検定委員会研究主幹)
最近著に「みがこう,あなたの日本語力」(東京書籍)
「生きるための日本語力」(明治書院)など。
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