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マンスリーコラム

その日本語,相手を不快にします 30

2012年5月

「じぶん」で失う自分

少々古い話であるが、状況は今日もあまり変わっていないので持ち出すことにします。

 

ある会社の応接室で、その会社の役員と面談していた時に、総務部の課長がやってきて、「自分をお呼びでしたか」とその役員に尋ねました。

その内容は、今日の話題と直接関係がないので省略しますが、課長が退室してから役員の漏らした言葉がおもしろかったのです。

 

「いや、あの男はね、若いころから『自分』を使ってね、課長になってもそのままなんだ。今もね、あなたがいなければ、『いい歳をしていつまで〈自分〉を使ってるんだ』と注意をしてやりたかったよ」

 

実は、私も傍で聞いていてはらはらしました。役員が小言を言うのではないかと余計な心配をしたのです。

 

「自分」という言葉については、辞書によっては「改まった言い方」と説明していますが、多用されている世界を考えてみますと、軍隊や大学の運動部などのように集団で行動するところが多いのです。つまり、その中にいる人間にとっては集団の意思が絶対で個人の意思による行動が許されないのです。

いささか意地の悪い言い方をすると、「自分」を使う集団の中では、個性や個性的な創造性は必要ないということです。

 

今日の社会的な通念からすると、一部の国語辞典の記述にもかかわらず、「改まった言葉」という認識より前述のようなマイナスの印象を持たれています。そこで、最初に挙げた会社役員のような言葉が出てくるのです。

ビジネスの世界では、確かに会社という集団の意思を、社員という個人が無視することはできません。

しかし、社内で社員が「自分は」「自分が」と使っているのを外部の人が聞くと、その会社は、いかにも個性のない、創造力のない人間の集団ではないかと思うかもしれません。

幸いわれわれは、「わたし」「わたくし」という一人称を持っています。

最初に出た課長は、「わたしをお呼びでしたか」と言えばいいのです。改まり度が足りないと思えば、「わたくしをお呼びになりましたか」と「わたくし」を使えばいいのです。

 

今なお「じぶん」から抜け出せない人は、今すぐ「わたし・わたくし」派に転向しましょう。


 

川本 信幹

著書に「日本語 鵜の目鷹の目烏の目」、「みがこう,あなたの日本語力」(以上、東京書籍)、「生きるための日本語力」(明治書院)など。

2011年11月逝去   *この原稿は、2011年に執筆したものです。

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