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マンスリーコラム

その日本語,相手を不快にします 31

2012年6月

「とりあえず」の使用は慎重に

 「とりあえず」という言葉は、日常生活の中でもビジネスの世界でもよく使われています。ところが、この言葉は意味の上で微妙なニュアンスを持っていて、使い手の意味の認識と受け手の意味の認識とがずれていると相手に不快感を与えることがあります。
  そういうテーマで本稿を書こうとしていたら、「日経ビジネスアソシエ」三月十五日号に「それ言っちゃダメ!〝地雷語〟を処理する方法」という特集が目に付きました。
 なんとその記事のトップに「とりあえず」が出てくるのです。 
 上司に「早く企画書を出せ」と言われて「とりあえず、作りました」と答えたら、「とりあえずは要らないから、ちゃんと作って持っておいで」と言われ、上司は目も通してくれなかったというのです。
 部下が使った「とりあえず」を意味を変えて使って「とりあえずは要らない(さしあたっては必要ない)」とし、せっかく作った企画書に目も通さなかったわけですから、この上司は部下の「とりあえず」に相当な不快感を覚えているに違いありません。考えてみると、これは駄洒落のように見えて、実は相当痛烈な皮肉になっていますね。
 部下は「急いで」と言うつもりで使ったようですが、上司は「間に合わせとして」とか「あまり考えないで」と言ったように理解したのです。
 最初に書いたように「使い手の意味の認識と受け手の意味の認識とがずれている」という現象が起きたわけです。
 部下は、例えば、アフターファイブに「お客さん何にしますか」と聞かれて、「ぼくはとりあえずビール」と答えるような軽い意味で使っているのです。
 「とりあえず」のような危ない言葉(「日経ビジネスアソシエ」が言う地雷語、意味や使い方をよく知らないで使うと、相手を怒らせてしまう言葉)は、正しい意味・用法をしっかり理解しておかなければなりません。

 

 「とりあえず」は平安時代から、「たちどころに・すぐに」という意味で使われていました。これが中世以降になると「さしあたって」とか「間に合わせとして」とかの意味で使われるようになりました。どの国語辞典にもそれなりの説明がしてありますから、正しい意味・用法を頭に入れておきましょう。

 

 

 

川本 信幹

著書に「日本語 鵜の目鷹の目烏の目」、「みがこう,あなたの日本語力」(以上、東京書籍)、「生きるための日本語力」(明治書院)など。

2011年11月逝去   *この原稿は、2011年に執筆したものです。

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