第12回日本語大賞


受賞のことば

各部門の最優秀賞である文部科学大臣賞を受賞された方のことばをご紹介します。



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    小学生の部 文部科学大臣賞

    茨城県
    古河市立古河第二小学校 1年

    佐藤 亘紀

    「こうちゃん、がんばって書いた作文が賞に選ばれたよ!」お母さんからそう教えてもらって、本当にびっくりしました。そしてすごく嬉しくなりました。ぼくはまだ字をたくさん書くのになれていないので、長い作文を書くのは大変でした。たくさん考えてけしたり直したりしながら書いたので、完成させるまでにとても時間がかかりました。でも、こんなすばらしい賞をもらうことができて、あきらめないでちゃんと書き上げてよかったな、と思いました。ぼくがこの作文を書けたのは、お父さんがぼくのために言葉をのこしてくれたおかげです。体が目の前からいなくなってしまったとしても、言葉はずっとのこって、何回でも人の心に届けることができます。すごく強い力を持っているものだと思います。この作文を書く時に、何回もお父さんが話している動画を見ましたが、そのたびにお父さんの言葉が電波みたいに頭の中に入ってきて、心にもはっきり伝わってきました。言葉は体とちがって消えません。だからすごく強いものだし、ぼくも大事に言葉を使わなくてはいけないと思っています。

    小学校に入ってからもうすぐ一年です。入学式もなくて、お祭りやいろいろな行事もなくなってしまいました。はじめての夏休みは9日間しかなくて、友だちとみんなで遊ぶチャンスもなかなかない一年でした。小学校に入ってから新しく会ったお友だちどうしが多いので、あいてのことが分からなくて時にけんかが起こったりすることもあります。ぼくも最初のころ、ついクラスのお友だちに悪い言葉を言ってしまったことがありました。その時お母さんにすごく怒られて、「言葉はずっと残って人を傷つけるから、気をつけて使うこと」、「人や自分がいやな気持になるマイナス言葉はぜったいにお友だちに言わないこと」を約束しました。言葉は強い力を持っていて便利ですごいですが、悪いことにも使えます。ぼくはお友だちにいやな気持になってほしくないから、これからも言葉を大事にあつかいたいです。

    今ぼくが言葉についてとくに興味を持っていることは、「外国の人から見て、日本語はどう見えるのか」ということです。ぼくの知っているアメリカ人やインドネシア人、中国人の人たちで、日本語を勉強していてすごく上手にしゃべることができる人たちがたくさんいます。ぼくも学校で英語の授業が時々ありますが、まだ全然わかりません。自分の国の言葉もできて、日本語もできるなんてすごいなぁ、と思います。ぼくもこれからがんばって言葉の勉強をつづけていって、いつか外国の人に日本語を教えてみたいと考えています。そのために、学校の先生やお母さん、まわりの大人の人たちにたくさん言葉を教えてもらって、もっと言葉を上手に使えるようになりたいです。作文にもたくさん挑戦して、いろいろな気持ちや体験を言葉にまとめたいです。すてきな賞がもらえてすごくうれしいので、これからももっともっとがんばりたいと思います。本当にありがとうございました。



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    中学生の部 文部科学大臣賞

    東京都
    小石川中等教育学校 2年

    鈴木 司

    文部科学大臣賞という名誉ある賞をいただき、とても嬉しく思います。今までスポーツ関連の表彰は何回か経験しているのですが、このような賞を受賞したことは一度もないので、自分自身すごく驚いています。本当にありがとうございます。

    さて、今回エッセイを書かせていただきましたが、実はあまり国語が得意ではなく、作文も上手く書くことができません。ですが、このコンクールについて国語の先生から聞いたとき、やってみようかなと思いました。自分の思ってることを文字に起こしたかったからです。部活も思うようにできない、友達とは遊べない、そんなモヤモヤした状況の中で、自分の気持ちをぶつけてみたくなりました。テーマは「心に響いた言葉」。そのテーマを聞いた瞬間、自分の見たアニメのセリフについて思い出し、自分の気持ちと一致したので、エッセイに書いたように周りの人に聞くことにしました。その後は悩みながらもなんとかエッセイを書くことができました。

    私がエッセイを書く中で、一つ考えたことがあります。それは今のこの状況についてです。きっと今、多くの人が苦しんでいると思います。やりたいことも満足にできない、制限が多い、辛いことだらけです。そんなマイナスだらけの今の状況を数年後に振り返ったときに、苦しいこともあったけど、自分にとってはプラスな部分もあったと胸を張って言えるような今にしたいと思いました。だからこそ、今のこの状況の中、必死に頑張ってやろうと思いました。ですが、人間には弱い部分があり、疲れていたり苦しすぎたりすると、どうしても頑張れない時があると思います。そんな時こそ、エッセイに書いたように言葉に力をもらおうと思います。人と人との直接的な会話を控えたほうが良い今こそ、多くの言葉に触れたいと思います。それは自分の好みに合わせて、読書でも漫画でもアニメでも映画でもなんでもいいと思います。そうして自分の触れた言葉の中のいいなと思った言葉から力をもらっていきたいなと思います。そして、頑張った上で乗り越えた今の状況に対して、数年後、「あの時頑張れたんだから今頑張るなんて余裕だ」なんて思うことができたら、本当の意味でコロナに勝ったと言えると思います。

    最後に、この賞に選んでいただき本当にありがとうございます。これからも様々な言葉に触れながら、自分の気持ちを文に起こしていきたいと思います。



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    高校生の部 文部科学大臣賞

    東京都
    東京都立三鷹中等教育学校 4年

    武田 悠世

    思いがけずこのような素晴らしい賞をいただき、ありがとうございます。受賞の知らせを聞いたときは、驚きのあまり頭が一瞬真っ白になりましたが、今、受賞の感想を書きながら喜びを実感しています。

    「私を動かした言葉」というテーマに出会った時、真っ先に曽祖母の言葉が思い浮かびました。「地獄は、あの世ではなくこの世にある」、この言葉を聞いた時、当時小学四年生だった私には、文字通りにしかその意味を捉えることができませんでした。しかし、その時受けた強烈な印象は色あせることなく、曽祖母が亡くなった後も、私の心の中で生き続けていました。私は曽祖母とのやり取りをこれまで誰にも話すことはなく、曽祖母の思い出とともに事あるごとに思い返しては、反芻してきました。自身の心の中でめぐり続けてきた漠然とした思いを、今回改めて文章として書き記すことで、曽祖母が言葉を通じて私に伝えたかったメッセージを、さらに深く理解することができたように感じます。このような機会を与えて下さった皆様に、そして、世代を超えて受け継いでいかなければならない大切なものを私に示してくれた曽祖母に、感謝したいと思います。



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    一般の部 文部科学大臣賞

    千葉県

    森 惇

    この度は、文部科学大臣賞という栄誉ある賞にご選出いただき誠にありがとうございます。選考に携わられた先生方に厚くお礼申し上げます。私の率直な感想を言いますと、「生きていて良かった」そう思うばかりです。

    外出がほとんどできない私にとって、文章を書くことが唯一の社会との接点でした。毎日同じ部屋の天井を眺め、同じ室内に居続ける生活…。病気となって社会と隔絶された気持ちになっていた私は、「何とか社会とつながりたい」そうどこかで願っていたのだと思います。

    振り返れば文章を書き始めた頃は、自分の闘病の辛さや苦しさを知ってもらいたいという思いが強く、一方的に自分の方向から書くことが多かったと思います。ですが、周囲に支えられて根気よく書き続けていく内に、書くこと自体が自分を見つめ直す作業となり、少しずつ病気と向き合って人生を前向きに捉えようと努力するようになりました。そのような作業を繰り返していく内に、同じように苦しんでいる人々がもしもいるならば、「私もここで闘っています」と伝えたいという思いが段々と芽生え始め、育っていきました。それまでは何もできず、役に立たないと自分を捉えていましたが、「家にいながらでもできることがある」「今の状況を伝えることによって、誰かと繋がっていくことができる」そういう可能性を教えてくれたのが、文章を書くということでした。このような心境の変化が、今回の受賞につながっていったのではないかと自分では思っています。

    今回書かせて頂いた『妻の否定』では、自分が普段悩んでいる心の葛藤を赤裸々に書かせて頂きました。心を病んでしまったり、体が不自由で看護をされないと生活できなくなったりすると、生きている意味や自分の存在価値等が見えにくくなってしまいます。そういう状況になると、どうしても苦しい今の自分を見つめてしまい、視野も狭くなっていきがちです。そうして自分の価値を完全に見失ってしまっていた時に、私は妻の言葉によって救われました。ですから、そんな時はどうか支えてくれる周囲の方々の眼から自分を見てあげて下さい。

    たとえ「こんな自分はいなくたっていい」と思ったとしても、支えてくれている周囲の方々は、「そんな状況のあなたであっても、生きていてほしい」と願ってくれています。その思いを共有してほしいと心から思い、書きました。病気と闘っている私たちも、生きていいんです。むしろ、その状況でも必死で生きている姿は、必ず周囲に伝わっています。それは非常に価値のあることだと私は信じています。私も日夜闘っています。ですから闘病で苦しい方々も、一日一日を共に生き抜いてゆければと思っています。これが、一番伝えたかったことです。

    このような受賞が無ければ、私の声を多くの方に聞いてもらうことはできませんでした。本受賞を通じて、一人でも多くの方々の目に届き、少しでもその皆様の人生の力になったならば、それ以上に嬉しいことはありません。

    最後に毎日支え続けてくれている妻と子どもたち、長年書くことを応援し続けてくれた青森に住む義父母に、この場を借りて感謝を伝えたいと思います。