第13回日本語大賞


受賞のことば

各部門の最優秀賞である文部科学大臣賞を受賞された方のことばをご紹介します。



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    小学生の部 文部科学大臣賞

    神奈川県
    湘南ゼミナ―ル 小中部茅ケ崎教室 小学6年

    向山 凛

    文部科学大臣賞という素晴しい賞をいただき、本当にありがとうございます。塾の先生から受賞の知らせを聞いたときは、全く信じられずドッキリかと思いました。塾の先生方に「今からいう事はこの先きっともう言わないと思うからよく聞いていてね。」と言われ、ドキドキしながら先生の言葉を待ちました。「日本語大賞で文部科学大臣賞をとったよ!」と言われ、最初は何を言われているのか分からず、頭が混乱しました。少し時間が経ち先生方が喜んでいる姿を見て私も嬉しさが込み上げてきました。

    家に帰り家族にこのことを言うと、「え!うそでしょ!?」「本当に?おめでとう!!」と興奮し驚きながらも、みんなとても喜んでくれました。

    次の日、小学校の先生に受賞のことを伝え、書いた作文を見せると泣いて喜んでくれました。そんな先生の泣き笑いの顔を見たとき、やっと受賞したことを実感したように思います。読み終わった後先生は「こんなにいいことが出来たのなら、もう先生をやめてもいい!本当にありがとう。」とまで言ってくれました。作文を書くのは少し大変でしたが、こんなに喜んでもらえたので書いて本当に良かったと思いました。先生がクラスのみんなにも読んでくれました。私はすごく恥ずかしかったけど、みんなも「すごいね!」と言ってくれたので嬉しかったです。

    作文のテーマを聞いたときに、すぐに学校の先生のことが頭に浮かびました。六年生の初日の出来事でしたが、時が経っても私の心には強く残っていたからです。一歩踏み出し変化することは、すごく勇気のいることで大変なことも多いと思います。けれども、一歩踏み出すことで、自分の成長にもつながるし、いろいろな経験をすることによって世界が広がります。私の小学校生活最後の一年は、先生の言葉のお陰でとても有意義なものとなりました。これからも先生の言葉を忘れずに、いろいろなことに挑戦していきたいと思います。

    一歩踏み出せずにいた私を変えてくれた先生に、とても感謝しています。そして、この作文を通して、「先生」に感謝の気持ちを伝えることができて本当に良かったです。思いを言葉にして伝えることは少し難しいけれど、大切なことなんだなと改めて思いました。これからも、自分の思いを伝えていけたらいいなと思います。そして、思いを言葉にして伝えることの大切さに気付かせてくれた「日本語大賞」にも「ありがとう」と伝えたいです。

    このような素晴らしい賞に選んでいただき、本当にありがとうございました。



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    中学生の部 文部科学大臣賞

    大阪府
    同志社香里中学校 1年

    永野 心深

    本当に驚いています。

    日本語大賞に応募するというよりも、夏休みの学校の課題を提出するという感覚しかなかったからです。しかも私にとって、中学に入って初めての夏休みの課題はあまりにも大変で、なかなか進まず、文句ばかり言っていました。「それだけ言いたい文句があるなら、それをテーマにしたらどう」という父からのアドバイスと「 」に伝えたい言葉という今回のテーマが重なって、書き始めようと机に向かったのを覚えています。

    とは言え、学校や先生に文句を伝えるわけにもいかず、他の文句と言えばあの暑さ、そして災害級の大雨、そんなことを言っているとその理由が温暖化にあること、健康な地球環境が急激に悪化していっていること、その原因を人間が作っていることなど父がていねいに話してくれました。でもまだ間に合うこと、たとえ1人でも高い志は周りの人へ影響することも合わせて教えてくれました。

    「地球に伝えたいこと」というテーマで、暑さや雨の文句を書いていくつもりが、気がつけば「自分たちでなんとかしなきゃ」というような、なにか将来の私に影響しそうなことまで変化していました。

    今回の課題・日本語大賞のテーマは、そんなきっかけを私に与えてくれました。そして最後に名誉ある賞を頂くことができ、驚きと喜びでいっぱいです。

    これからも自分の心に正直に文を作っていければと思います。

    ありがとうございました。



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    高校生の部 文部科学大臣賞

    東京都
    渋谷教育学園渋谷高等学校 1年

    近藤 千紗

     このたび、栄誉ある文部科学大臣賞を受賞することができ、大変光栄に思うと同時に、驚きでいっぱいです。誠に有難うございます。喜びを胸に抱きながら、この作品を書くにあたり考えたことを、少し振り返ってみたいと思います。

     第13回日本語大賞について知ったのは、父の転勤でイギリスから帰国して数か月という頃でした。イギリスでの体験について何か書いてみたいと思い、何が印象深かったのか思いを巡らせました。私の場合は、一日の大半を過ごした現地校でのこと、特に日本とは内容の異なる授業科目についてが、そうでした。

     特に「宗教」の授業は、イギリスでは公立校・私立校を問わず、全国の小中学校で必須科目です。世界3大宗教だけではなく他の宗教についても学ぶものでした。また、ヨーロッパの歴史や哲学、倫理観といったものにも触れる授業内容で、私の視野を広げてくれるものでした。

     では、なぜ「宗教」が必須科目なのかを考えてみると、宗教を学ぶということは、人種も国籍も異なる人々が共存するイギリスだからこそ、各自が身に着けるべき「マナー」としての側面があることに気が付きました。

     そこで、今回はその「マナー」を知らなかった自分の失敗をもとに、伝えたいメッセージを書きました。このような立派な賞をいただけるとは、思ってもみませんでした。メッセージをくみ取って選出下さった審査委員の方々、現地校への転校初日に私の目を覚ましてくれた級友、そして、本作品を読んでくださる皆さまに感謝したいと思います。



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    一般の部 文部科学大臣賞

    愛知県

    菱川 町子

     エッセイ教室に通い始め七年ほどたったころ、ものは試しと日本大賞に応募したが見事落選。その後も五回ほど投稿を続けたが、日本語検定委員会からは音沙汰なし。つまり六回落選したということだ。今回は七回目の挑戦だった。だからといって、私がどんな困難も乗り越えて粘り強く頑張る性格という訳ではない。何度落選しても書き続けたのは、指導してくださった先生の言葉が心に残っていたからだ。

    「エッセイを書く事は、あなたの人生に埋もれている宝を探すことですよ」

     しごく平凡な家に生まれ、当たり前の人生を当たり前に歩んで来た私に、宝なんてあるものかと思った。特に優れた特技もなく、可もなく不可もなく過ごしてきた。その上たいして美人でもないし、一メートル五十に満たない貧弱な体ではスポーツで脚光を浴びることなどなかったからだ。

     しかし、エッセイを書き続けていると、先生の言葉の意味が次第に分かって来た。書くという事は自分と真正面に向き合うことだ。今まで何気なく過ごしてきた過去の出来事、周りの人々の事を改めて深く見つめ直すことだ。言葉をひとつひとつ紡ぎながら、自分の過去と向き合うと、古い写真を見て思い出すとは違う何かが生まれる。うっすらとしていたものが、言葉に表すことによってはっきりと輪郭を表し始める。

     毎年発表されるテーマは、宝のありかを示す地図だ。テーマについて書くことは、視点を変え物事を見ることであり、そこには新しい発見がある。今まで見過ごしてきた場所を言葉というシャベルを使って掘り起こしていくと、あった、あった宝物が。何度落選しても応募をやめなかったのは、宝捜しが楽しくなったからだ。

     掘り起こして見つけたものは私を育んでくれた故郷の美しさだったり、私の成長を見守ってくれた母の愛や厳格で頑固おやじの顔に隠された父の愛という宝だ。そして、とるに足らないと思っていた自分の人生を、素直に認めることができるようになった。

     今回の栄誉ある受賞は身に余る光栄である。知らせを聞いた時は、信じることができなかった。このエッセイは四十数年前、母が私の娘にしてくれたことを思い出し書いたものである。母の孫娘に対する想い、喜びや悲しみに触れ、思わず呟いた言葉が今回のテーマと重なった。

     忘れられない思い出を残してくれた母には感謝するばかりである。私が掘りだした宝を、審査委員の先生方が認めてくださったことも喜びを倍増させてくれた。

     言葉というシャベルを使い、自らの人生を掘り起こす宝探しはまだまだ続くだろう。