教師の言葉が学びを変える
―日本語力のエビデンスと日本語検定の教育的価値―

photo

日本語検定委員会主任研究員
元川越市教育委員会教育長

山浦 秀男

1 教師に今、最も求められている力としての「日本語力」

現代の学校教育では、教師に求められる資質・能力が大きく変化しています。その中でも、今、最も重要性が高まっているのが「日本語力」です。ここでいう日本語力とは、単に正しい日本語を話す力ではなく、子どもの学びを生み出し、思考を深め、対話を促すための教育言語力を指します。
文部科学省は学習指導要領において「言語活動の充実」を教育の基盤として位置付けています。理由は明確で、子どもが思考し、判断し、表現する力は言葉によって育つからです。国立教育政策研究所(国研)の学習指導要領実施状況調査でも、授業の質を左右する要因として「教師の言語行動」が繰り返し指摘されています。さらに、生徒指導提要は、子どもが安心して話せる関係づくりの中心に「教師の言葉」を置いています。
つまり、教師の言葉が変われば授業が変わり、授業が変われば子どもの学びが変わります。次期学習指導要領の議論でも、「深い学び」を支える教師の言葉の質が重要なテーマとなっており、全国の教育センターでもファシリテーションや対話的な授業づくりを重視した研修が進んでいます。
ここで特に強調したいのが、NPO日本語検定委員会が長年提唱してきた理念です。
「日本語力はすべての学びの基盤である」
これは単なる標語ではなく、教育心理学・言語教育学・授業研究のエビデンスと完全に一致しています。
日本語検定は、子どもから大人まで、言葉を使う力を客観的に測定し、伸ばすための社会的な仕組みとして広がってきました。教師自身が言葉の使い方を見直し、磨くことは、教育の質を高めるための重要な自己研鑽です。実際に、全国の教職員から
「授業での言葉の選び方が変わった」
「子どもの発言が増え、対話が深まった」
という声が多く寄せられています。
こうした動向を踏まえると、教師の日本語力とは「上手に話す力」ではなく、子どもが話したくなる言葉を使い、考えたくなる問いを投げかける力であると言えます。


2 教師の日本語力を構成する4つの柱

以下の4つは、学習指導要領・生徒指導提要・国研の調査・教育心理学のエビデンスに基づく、教師の日本語力の中核です。

① 分かりやすく説明する力

「主体的・対話的で深い学び」を実現するためには、教師の説明が子どもにとって理解可能であることが前提です。

抽象語ではなく、発達段階に応じた具体的な言葉で伝える
専門用語を使う場合は、必ず具体例や比喩を添える
「考えなさい」ではなく「どうしてそう思ったの?」「理由を一つ教えて」など、行動を促す言葉に変える
板書・資料と説明の言葉を一致させる
子どもが誤解しやすい語を事前に予測し、言い換えを準備する

これは、子どもの思考を言語化させるための「説明のデザイン」であり、授業の質を左右する重要な要素です。

② 最後まで聴く力(傾聴)

国研の授業研究では、教師が話す時間より子どもが話す時間を増やすことが学びの質を高めると示されています。そのために不可欠なのが「聴く力」です。

子どもの発言を遮らず、最後まで聴く
否定や訂正を急がず、まず受け止める
「なるほど」「そういう考えもあるね」と受容的な言葉を使う
子どもの言葉を復唱し、理解していることを示す
発言の少ない子にも安心して話せる雰囲気をつくる

生徒指導提要が強調する「安心できる人間関係づくり」に直結する言語行動であり、子どもの自己肯定感を高める効果が教育心理学でも示されています。

③ 認める言葉を使う力

肯定的フィードバックは、子どもの自己効力感や挑戦意欲を高めることがエビデンスで明らかになっています。

「違う」「だめ」ではなく、「そういう見方もあるね」「面白い考えだね」
子どもの努力や過程を認める
例:「そこまで考えたんだね」「よく気付いたね」
間違いを「学びの材料」として扱う
例:「この考えから学べることは何だろう?」
承認の言葉を形骸化させず、具体的な内容に基づいて伝える

こうした言葉は、子どもの挑戦意欲を育て、学びの主体性を引き出します。

④ 考えを深める問いをつくる力

次期学習指導要領の議論で最も注目されているのが「思考を促す教師の問い」です。

「他にはある?」「もし反対の立場なら?」など、思考を広げる問い
「友達の考えと比べるとどう?」など、比較・関連付けを促す問い
子どもの発言を起点に、次の問いを生成する
「問いの連鎖」を意識し、深まりのある対話を設計する
子ども自身が問いをつくる場面を設定する

問いは、深い学びを生み出す「授業のエンジン」です。


3 教師の日本語力チェックリスト

授業改善・校内研究・教採対策で使えるよう、評価可能な形で整理しました。

① 分かりやすく説明する力

子どもの発達段階に応じた言葉で説明している
抽象語を具体例・比喩で補っている
行動を促す具体的な言葉を使っている
板書と説明が一貫している
誤解しやすい語を事前に予測している

② 最後まで聴く力

発言を遮らず最後まで聴いている
否定を急がず受容的な言葉を使っている
子どもの言葉を復唱している
発言の少ない子にも安心感を与えている

③ 認める言葉を使う力

否定語を使わず、多様な考えを価値付けている
努力・過程を認める言葉を使っている
間違いを学びに変える言葉を使っている
承認の言葉が具体的である

④ 考えを深める問いをつくる力

正解を求める問いより思考を促す問いを使っている
比較・関連付けを促す問いを使っている
子どもの発言を起点に問いを生成している
子ども自身が問いをつくる場面を設定している_

4 教師の言葉が、子どもの未来をつくる

教師の日本語力とは、ただ「正しい日本語を話す力」ではありません。それは、子どもの学びを生み出すための大切な専門性です。
教師が授業で使う言葉には、次の4つの力が求められています。

分かる言葉で伝える
最後まで聴く
認める言葉を使う
考えを広げる問いを投げかける

これらは、学習指導要領がめざす「主体的・対話的で深い学び」を支える土台です。国立教育政策研究所の調査でも、授業の質を高めるうえで「教師の言葉」が大きな役割を果たすことが示されています。また、全国の教育センターの研修でも、子どもが安心して話し、考えられるような言葉づかいが重視されています。
さらに、ここで改めて強調したいのが、日本語検定の教育的価値です。日本語検定は、教師自身の言語感覚を磨き、授業の質を高めるための有効な自己評価ツールです。

自分の説明は分かりやすいか
子どもの言葉を受け止められているか
承認の言葉は具体的か
思考を促す問いをつくれているか

こうした教育言語力を客観的に点検できる仕組みは、日本語検定以外にほとんど存在しません。
だからこそ、全国の教職員が受検し、授業改善や校内研究の指標として活用しています。
教師の言葉は、子どもの心にまっすぐ届きます。その一言が、子どもの思考を育て、自己肯定感を高め、学びへの意欲を引き出します。そして、その積み重ねが、子どもの未来をつくっていきます。
「何を教えるか」だけでなく、「どんな言葉で教えるか」。その問いに向き合うための最も確かな自己研鑽の一つが、日本語検定です。ぜひ、多くの教職員の皆様に受検していただき、教育言語力を磨く新たな一歩を踏み出していただきたいと願っています。

山浦秀男(やまうら ひでお)

日本語検定委員会主任研究員、元川越市教育委員会教育長

東京理科大学理学部化学科卒業後、埼玉県にて公立小・中学校教諭、埼玉県教育局主任管理主事・主任指導主事、公立中学校長、特別支援学校長、埼玉県立総合教育センター副所長、埼玉県教育局文教政策室副室長、川越市教育長を歴任。
長年にわたり、生徒指導の視点を取り入れた教科指導の体系化に携わり、文部科学省『中学校理科指導資料』作成委員として理科教育の改善に寄与。
東京書籍中学校理科化学編集委員として30年以上にわたり教科書編集に従事し、観察・実験の技能育成を重視した理科教育の普及に貢献。
現在、大学の非常勤講師として、教師を志す学生の育成に尽力。