第1回 次期学習指導要領は何を求めるのか
―教師の専門性アップデートのために―
日本語検定委員会主任研究員
元川越市教育委員会教育長
山浦 秀男
次期学習指導要領の議論が進む中、学校現場では「授業の質をどう高めるか」「教師の専門性をどう持続させるか」という問いが一層強まっている。中央教育審議会の審議まとめ、国立教育政策研究所の研究、生徒指導提要の改訂、主要新聞各紙の報道を総合すると、次期要領が教師に求める方向性は、①深い学び(Excellence)②多様性の包摂(Equity)③実現可能性(Feasibility)の3つの柱に整理できる。これは授業改善にとどまらず、学校運営・生徒指導・教材研究・ICT活用まで含めた「教師の専門性の再定義」を意味する。
1 深い学びを支える「見方・考え方」の学習過程の構築
次期要領は、現行要領の「主体的・対話的で深い学び」をさらに構造化し、
を一体的に育成する学習過程を重視する。特に重要なのは、各教科の「見方・考え方」を働かせる学習過程の明確化である。小学校総則では、知識を関連付けて深く理解する過程を重視すると明記され、算数・数学では「数学的な見方・考え方」を通した概念形成が必須とされる。
問題解決の見通しをもち、粘り強く取り組み、振り返りを通して新たな問いを生み出すという一連の過程こそ、深い学びの中核である。
(1) 教師への示唆
深い学びとは、活動の多様化ではなく、思考の質を高める授業デザインであり、教師の教育言語力が問われる領域である。
2 多様性に応える個別最適化と協働的学びの統合
次期要領は、不登校、特異な才能、障害特性、学年の柔軟化など、多様な学びのニーズに対応するため、制度面の改革を強調している。
(1) 制度改革のポイント
これらは、生徒指導提要が示す「心理的安全性」「協働的な学びの基盤形成」と密接に関係する。個別最適な学びは「個別化」ではなく「最適化」であり、学習方略指導やICTによる学習履歴分析が重要となる。一方、協働的な学びでは、少数意見の吟味や納得解の形成など、対話の質を高める指導が求められる。
(2) 教師への示唆
多様性の包摂は、教師の指導観・人間観を問う領域であり、教育言語力の深化が不可欠である。
3 教師の負担を軽減し専門性を支える「余白」の創出
新聞報道では、次期要領に関する懸念として「教師の負担増」が繰り返し指摘されている。ICT活用が逆に負担となるケース、探究学習の質のばらつき、学力格差の拡大など、現場の実態は深刻である。こうした状況を踏まえ、次期要領は「余白」の創出を明確に打ち出している。
(1) 余白とは何か
余白とは、教師が「本当に必要な仕事」に集中できるように、制度・教材・校務の仕組みを見直して生み出す時間と精神的ゆとりである。新しい施策を増やすのではなく、「やるべきことを絞り、やりやすくする」方向への転換が次期要領の特徴である。
(2) 余白を生み出す具体策
(3) 教師への示唆
余白の創出は、制度改革と現場の実践をつなぐ鍵であり、教師の専門性を持続可能な形で高めるための基盤となる。
4 次期学習指導要領が示す教師専門性の再定義
次期要領は、深い学び(Excellence)・多様性の包摂(Equity)・実現可能性(Feasibility)の三つの柱を通して、教師の専門性を抜本的に再定義しようとしている。これは授業改善だけでなく、学校経営、生徒指導、ICT活用、教材研究、評価、校務運営まで含めた「教師の仕事の全体構造」を問い直す改革である。
(1) 学びのプロセスをデザインする教師の専門性
教師は「教える人」から、学びのプロセスをデザインする専門職へと進化する。
(2) 多様性を学びの資源へと転換する教師の専門性
教師は子どもの多様性を「問題」ではなく、学びの資源として活かす専門職へと変わる。
(3) 持続可能な働き方を創る教師の専門性
教師は、校務のDX化や教材の表形式化を通して、持続可能な働き方を自ら設計できる専門職へと進化する。
(4) 新しい教師の専門職モデル
3つの柱を総合すると、次期要領が求める教師像は次の通りである。
これらは従来の「授業ができる教師」像を超え、学校全体の学びの質を支える教育の専門職モデルである。
5 教師志望の学生・現職教員へのメッセージ
教師志望の学生にとって次期学習指導要領は、「これからの教師像」を理解するための羅針盤となる。現職教員にとっては、日々の実践をアップデートするための視点となる。
教育言語力を基盤に、
を磨くことが、次期要領の時代を生きる教師に求められている。
次期学習指導要領は、教師の仕事を増やす改革ではない。教師の専門性を守り、未来の教育を支えるための改革である。
山浦秀男(やまうら ひでお)
日本語検定委員会主任研究員、元川越市教育委員会教育長
東京理科大学理学部化学科卒業後、埼玉県にて公立小・中学校教諭、埼玉県教育局主任管理主事・主任指導主事、公立中学校長、特別支援学校長、埼玉県立総合教育センター副所長、埼玉県教育局文教政策室副室長、川越市教育長を歴任。
長年にわたり、生徒指導の視点を取り入れた教科指導の体系化に携わり、文部科学省『中学校理科指導資料』作成委員として理科教育の改善に寄与。
東京書籍中学校理科化学編集委員として30年以上にわたり教科書編集に従事し、観察・実験の技能育成を重視した理科教育の普及に貢献。
現在、大学の非常勤講師として、教師を志す学生の育成に尽力。