仕事やプライベートなど、あらゆる場面で求められる「言葉にする力」。仕事の提案書からSNSでの投稿まで、現代生活においてアウトプットの重要性は増すばかりです。
「アウトプットの質を高めるには、インプット段階での工夫が重要だ」と話すのは、要約やインタビューの仕事に携わる、松尾美里さん。今号では、松尾さんに、良質なアウトプットのためにできることについてご寄稿いただきました。言葉にする力を磨く方法を、ぜひお確かめください。
私たちは日々、さまざまな「アウトプット」をしています。仕事では、会議中に意見を述べる、顧客への提案書を書く。プライベートでは、映画の感想をSNSで投稿する。いずれも、「話す・書く﹂という﹁言葉で伝える活動﹂です︒また︑プレゼンテーションの資料作成では、文章だけでなく図解やショートムービーを盛り込むなど、求められるアウトプットの方法も多様化しています。
さらに2022年11月にOpenAIが生成AIの「ChatGPT」を公開して以降、AIを活用するシーンは急速に広がりました。企画の壁打ちや文章の校正など、非常に便利な存在です。しかし、それらを使いこなすには、「どんな回答を得たいのか」をイメージし、的確な問いや指示文(プロンプト)を言語化する力が欠かせません。
そもそも自分の考えを相手に正しく伝えること自体、簡単ではありません。何を言いたいのか整理できなかったり、意図したニュアンスが伝わらなかったりして悩んでいる方も多いでしょう。そんなときに意識したいのが、「良いアウトプットは良質なインプットから生まれる」という発想です。
私は本の要約サービスflier(フライヤー)で要約やインタビューの仕事をしています。「まとめる」「言葉にする」というアウトプットの質を高めるには、本を読む、話を聞くといったインプット段階での工夫が重要です。ここからは、「読む」「聞く」という二つの入り口から、良いインプットの秘訣を紹介します。
要約をつくる際、私が目指しているのはその本の本質、著者の主張の骨子を的確に捉えることです。読書でまず意識しているのは、「この本は何について、どんな構成で書かれているのか」という全体の「見取り図」を把握すること。タイトル、帯、目次、「はじめに」などから構成をつかみ、細部を読む前に「一章は問題提起、二・三章は原因分析と事例、最終章は提案と結論」といった全体像を描くことで、本の理解度は格段に高まります。
次に大切なのは、「この一冊から何を持ち帰りたいのか」を決めることです。難解な本ほどすべて理解しようとすると挫折しがちですが、目的を明確にすると、ほしい情報が見つかりやすくなります。たとえば、「職場で実践できるチームワークを高める方法を知りたい」といった自分だけの問いをもって読むことが、良質なインプットにつながります。
インタビューという「聞く」インプットでも、目的意識は欠かせません。たとえば、社長インタビューを記事化する際、就職活動生向けのメディアで社長の人となりを伝えたいのか、投資家向けのメディアで事業の成長性を示したいのかで、掘り下げるテーマも文章のトーンも大きく変わります。
聞く力の本質は「相手の世界観を言葉にする」ことだと考えています。質問を重ねながら、相手の考えの「背骨」を探り、その背景にある価値観に近づこうとするプロセスの中で、新しい視点が生まれます。
こうした対話を限られた取材時間で実現するには、相手の著書や過去の発信、会社のホームページなどを通じた情報収集や、インタビュー項目作成といった「事前準備」が欠かせません。著書『読む・聞く、まとめる、言葉にする』でも詳しく紹介していますが、入念な準備は誠意として伝わり、初対面でも信頼関係が築きやすくなります。その結果、相手が心を開き、本質的な対話が生まれやすくなる。これもまた、事前準備の大きな効用です。
ここまで述べてきたように、アウトプットの機会があるからこそインプットの質も磨かれます。その土台となるのが「日本語の力」です。同じ出来事でも、語彙や文体、文のリズム、比喩表現などによって、伝わり方が変わります。「どんな言葉を選ぶか」に自覚的であることが、良い言語化への第一歩です。
日本語検定は、こうした力を体系的かつ継続的に育てるための最適な機会だと思っています。「語彙、文法、敬語、言葉の意味、表記、漢字」の六領域から、自分の現状を把握できますし、問題を解いて解説を読むことで、日本語の豊かさや奥深さを味わうことができます。こうした学びを楽しむことが、「読む」「聞く」というインプットの質を下支えするのではないでしょうか。
インプットの質を高めるためのおすすめ方法の一つに、「学んだことを一言でまとめる」習慣があります。本を読み終えたあとに「この本のポイントを一言にすると?」と自問してみると、内容が自分の言葉として定着しやすくなります。その素材は、本のほか、新聞、雑誌、日本語検定の問題、WEBメディアなどさまざまです。本の要約サービスでは、ビジネス書、リベラルアーツの本、古典など幅広い良書に出会えます。興味分野を広げながら、学びのツールの一つとして活用いただけたら嬉しいです。
アウトプットをすると何かしらの反響があります。それが大事なインプットになり、さらにアウトプットが磨かれていきます。特に学生や若手社会人の皆さんには、「失敗しても大丈夫。伝えようとしたこと自体が尊い」というメッセージを届けたいです。
豊かな日本語の力を味方につけて、アウトプットの力を磨いていく。それは、伝える先にある相手や社会を思いやる行為でもあると思います。仕事でもプライベートでも、「この言葉を相手はどう受け止めるだろうか」と思いを馳せることで、自分と相手とのあいだに橋をかけやすくなる。その営みを支え合う機会が増えていくことに、私自身も微力ながら寄与していきたいと思います。

フォレスト出版
「読む · 聞く、まとめる、言葉にする」という一連のスキルを磨いていくと、どんな仕事もうまく進む。これが本書の趣旨です。本を読む力、話を聞く力、情報を整理する力、言語化する力をどう高めるのか、実践的な方法をまとめました。これらを磨くことが、自分の「あり方」を豊かにすることにもつながる。そんなメッセージを込めた一冊です。
https://www.amazon.co.jp/dp/4866802782

松尾 美里(まつお みさと)
編集者・ライター/株式会社フライヤーコンテンツゼネラルマネジャー
日本インタビュアー協会認定インタビュアー
京都大学文学部にて社会学を学び、インタビュー調査を通じて「聞く」ことの奥深さに気づく。株式会社Z会を経て、2015年、株式会社フライヤーに参画。本の要約のライティング・編集を行う。書籍の要約制作は約900冊に及び、フライヤーや他のメディアにて、経営者・著者・各界のプロフェッショナル600名以上にインタビューを行う。ライフワークは、新たな挑戦をしている人々の生き方や想いを聞き、伝えること。Schoo、日本広報協会、人事図書館などで講演・講義を行う。