葬祭関係者の研修を通して感じる日本語の力の必要性

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エピローグコンサルティング株式会社

代表取締役

小野寺 秀友

葬送文化と言葉

 冠婚葬祭でよく耳にする言葉に、忌み言葉(NG ワード)というものがあります。「終了=お開き、結び」「忙しい=ご多用」などの言い換えは、結婚式で配慮することが多いかもしれませんが、そのほとんどが葬儀でも同じように不幸を連想させる言葉として捉えられています。

また、言語としては正しくても、日本語の使い方としては気遣いが必要な場面がたくさんあります。特に葬儀では、大切な人を亡くされたご遺族に対して「どのような日本語を使うか」ということは、とても重要です。

言葉の意味を気にしなくなった

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 葬儀の場で数多くのご遺族と向き合ってきて感じてきたことがあります。それは、ご遺族も葬儀の担当者も「言葉の意味を気にしなくなった」ということです。というよりは、葬儀業界が言葉の意味や使い方に対して関心を持たなくなったのかもしれません。何故でしょうか?

 ご遺族から質問されることが少なくなったこともありますが、そもそも葬儀の場面で伝えられてきたことは、すべてが正しいわけではなく、諸説ありのことがほとんどです。なので、質問された時に「気になさらなくても大丈夫です」などと答えることが少なからずあります。答えるのが難しい、答えたことが間違っていたらクレームになる……など、いろいろな要因がそこにはあります。

対応が難しい質問の例

 「挨拶の文章はどうやって作れば良いのか?」という質問をいただくことがあります。葬儀では喪主の挨拶、献杯の挨拶、弔辞などたくさんの場面があります。冒頭でも述べた通り、一般的な忌み言葉はもちろんのこと、宗派や地域による表現の仕方、さらにはご遺族の心の状態に応じた気遣いなど配慮が必要なことがたくさんあります。そこには、恐らく、自信を持って自分の言葉で答えることのできる担当者は、そうそういないと思います。挨拶文の作成のお手伝いをしたくても、例文をお渡しして終了、という対応が精一杯の担当者も多いのではないでしょうか。

ご遺族への気遣いが出来る「日本語力」

 「ご遺族の言葉は信用しない」。ストレートに受け止めるとひどい言葉に聞こえますが、これは行間を読むことが大切だということです。

 例えば、小さなお子様を亡くされたご遺族だったとします。

 ご遺族から「まだお墓は必要ないですよね?」と聞かれたら、あなたならどうお答えしますか?

 「そうですとも、気が済んだら作りましょう」などと答える人もいるかもしれません。

 一見、ご遺族に寄り添った言葉に感じるかもしれませんが、大切なのは「ご遺族にどのようになってもらいたいか」という思いを伝えることです。この場合では、「お墓があるとどんな良いことがあるのか」を伝えることが大切です。

 もちろんこれが常に正解というわけではありません。大切なのは伝わることなのです。

必要なのは正しい言語ではなく、伝わる言葉

 大切なのは「相手に伝わる言葉を使う」ということだと私は感じています。そのために必要なことは、やはり言葉に関心を持つことだと思います。

方法は二つ

• ご遺族の言葉の持つ意味を理解すること(どのように受け止めるか)

• ご遺族に伝わる言葉(日本語)を使うこと(どのように伝えるか)

これらに必要なのは、日本語力を身につけ、コミュニケーション力を高めることだと思います。

コミュニケーションを豊かにするための日本語力

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 私は葬祭関係者の研修を通じで常日頃から伝えていることがあります。それはコミュニケーション力とは才能ではないということです。昨今、様々なコミュニケーションスキルを学ぶための講座にあふれています。しかし、その中で正しく日本語が使えているかどうかは、もしかしたら置き去りになってしまっているような気がしています。

 コミュニケーションの力を豊かにする日本語を使いこなす人材がこの業界には必要だと感じています。

小野寺 秀友(おのでら ひでとも)

相続ファイナンシャルプランナー、葬儀終活コンサルタント。大手互助会式場の支配人を経て、当時珍しかった葬儀社内でのアフターサポート部門を開設。約2600 件の葬儀後サポート、生前相談の経験を活かし、2014 年、葬儀社向けコンサルタントとして独立。現在は介護を含めた高齢者のお悩みをワンストップで相談出来る窓口も行っている。一般社団法人マンダラエンディングノート普及協会代表理事。