わかりやすく伝えることが大事

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ビジネスアシストパートナ株式会社

代表取締役

山橋 美穂

資料作成を外部に委託する概念などなかった2012年、時流に先駆けてB to B(企業間取引)によるプレゼンテーションや営業の資料作成代行と資料作成に関する研修を二本柱として起業した山橋氏。「時間がない」、「人手がない」、「作成した資料で結果が出ない」、などを理由にした依頼をはじめ、IR(企業が株主や投資家に対し財務状況など投資の判断に必要な情報を提供する活動)や決算説明会など大きな局面で使用する資料など、山橋氏の手掛ける資料作成は多岐に渡る。2015年に日本で6人目となるMicrosoft MVP (Power Point 部門) を受賞し、現在まで毎年連続受賞。そんな山橋氏の資料作成の極意とは。

「伝える」から「伝わる」に意識を変える

資料作成の道を究めるきっかけとなったのは、入社した外資系証券会社で配属された、投資銀行本部の資料作成専門チームの仕事でした。外資系企業では、商品価値を左右する資料(提案書)の存在が重要視されており、外資系の証券会社に限って言えば資料作成チームがありました。証券会社の場合は、M&Aや資金調達など難題が多いため、資料が利益に直結するといっても過言ではありません。そうした環境下で培ったスキルの中でも、何より大事にしているのは、「わかりやすく、伝わりやすい」ことです。

「わかりやすい」とは理解までの時間が短いこと。人は、すぐ理解できればわかりやすいと認識しますが、理解に時間がかかればかかるほどわかりにくいと判断する。だからこそ、資料作成には要約された簡潔な文章が求められるのです。また、正確に伝わることも大事。たとえば、「字が上手い」と言われても、上手いの捉え方は個々に違うため感覚論や感情論では的確に伝わりません。ならば、「書道大会で1位でした」、ではどうでしょう。なんとなく字が上手いことは伝わりますが、大会の規模がイメージできずこれも曖昧です。最も伝わるのは、「全国1万人が参加した大会で優勝しました。」これなら確実に達筆であると伝わります。

ところが、研修を行っていると「伝わる」より「伝える」を優先させている人が多く見られます。相手の立場に立った「伝わる」資料を作っているはずなのに、出来上がった資料は自分中心の「伝える」資料になっている。伝えたいから情報量が多くなり文字量も増えますし、書き込めば書き込むほど軸がブレ、伝えたいことが伝わらなくなってしまいます。これでは相手の心に響きません。

さらに、資料作成に限らず、文章を書く時は日本語力が問われます。対面のコミュニケーションなら語気に感情がのり、文法がなくても場の雰囲気で会話が成立しますが、文章となると感情や感覚のニュアンスは伝わりづらい。相手との温度差をなくすためにも、正しい文法や「てにをは」を疎かにしないよう心がけています。

日本語は世界に誇れるチャーミングな言語
—ビジネスにおける日本語力の必要性を説く一方、日本語の魅力を話題の「鬼滅の刃」からひも解いてくれた。

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三つのキャラクター(漢字、平仮名、片仮名) を持つ言語は、世界中で日本語だけです。それだけに難易度の高い言語ではありますが、かなや漢字の成り立ちや言葉の由来にはとても興味深いものがあります。

漢字で連想する最近の話題と言えば「鬼滅の刃」。大人でも書けない、読めない、漢字や言い回しが押し寄せてきますが(笑い)、難しい日本語に触れる絶好の機会ですよね。たとえば、鬼の「猗窩座あかざ」。読めませんし、意味もわかりません。ですが、「猗」、「窩」、「座」と一語ずつ深堀していくと、それぞれの漢字の意味が鬼の性格と合致しているんです。知るとワクワクしますよね。この感覚に子供たちが気づいたら、日本語の面白さに引き込まれていくはずです。

外国人も同様。カナダに留学していたことがあるのですが、外国人は自分の名前に漢字を当てることを好みます。それは英語と違って漢字が意味を持っているから。アルファベットの「a」に特別な意味はないですがたとえば、エミリという名の「ミ」に「美」を当て、「ビューティフルの意味だよ」と教えると、自分の名前の素晴らしさに感動します。

将来の日本語を豊かにするのは子供たち
—日本語に興味は持っていたものの、正しい日本語を特に重要視するようになったのは、起業して会社の代表になってからだと言う。

「美しい日本語を話しなさい」と言われても、若い頃はピンときません。ですが、年を重ねて痛感するのは、発する言葉には品格や知性が表れるということ。適切な日本語が話せなければ自分に自信が持てません。どんなにエレガントな女性でも、話す際に謙譲語と尊敬語が間違っている、書かれた文章が稚拙、であればその人の価値はガタ落ちです。私もまだまだ勉強中ですが、語彙を増やして日本語力を高め、正しい日本語はもちろん、心地よい日本語やサウンドの美しい日本語を遣える人でありたいと思います。

—そんな山橋氏の日本語磨きのツールは読書と日本語検定のテキスト。今後の日本語検定への期待も伺った。

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特に、夏目漱石などの純文学が好きですね。 たとえば、「ひとりごと」という言葉は、当時では「ひとりごち」。内容とともに、時代によって移り変わる言葉にとても魅かれますし、日本語の柔軟な一面を感じます。そう考えれば、十年後、二十年後の日本語にも、現代の日本語が変遷した新たな言葉が生まれているでしょう。将来の日本語を作っていくのは今の子供たち。日本語の発展のために、日本語検定には日本語の面白さや楽しさを通して、正しい日本語を若い世代に向けて発信していただけたらと願います。

山橋 美穂(やまはし みほ)

ビジネスアシストパートナ株式会社 代表取締役
1999年青山学院女子短期大学卒業、2004年武蔵野美術大学卒業。
2004年より外資系証券会社、日興シティグループ証券株式会社のプレゼンテーション資料作成チームに就業。投資銀行部門IBD に所属し、毎日数多くの法人企業向け資料を作成。実務にて資料作成スキルを身につける。日興シティグループ証券からSMBC日興証券に移ると、プレゼンテーション資料作成チームのリーダーとしてチームの立ち上げに従事。オペレーターの育成から資料テンプレートの制作、テンプレートレギュレーションの取り決めなどに携わる。また、社員を対象としたパワーポイント・エクセル・資料作成に関する研修の講師を任せられ、社員育成に貢献する。2012年に資料作成の専門家としてフリーランスに転向。2017年にビジネスアシストパートナ株式会社を設立。15年以上に渡り培ったキャリアを活かし、営業用、企画書、プレゼンテーション、決算説明会、学会発表などの資料作成代行、資料作成に関する企業研修・専門学校・ビジネススクール等の講師、オリジナルテンプレートの提案・作成、執筆業などを行う。外資系投資銀行の実務でスキルを積み上げてきた経験を活かし、ビジネスシーンにおける活きた資料作成スキル、実践的かつ実用的な資料作成のナレッジを提供していると共に、美術大学出身ならではのビジュアルを重視した分かりやすく意図の伝わる「ビジュアルプレゼンテーション」を構築している。特に金融業界の資料に強み。2015年に日本で6人目となるMicrosoft MVP (Power Point 部門) を受賞し、現在まで毎年連続受賞。