小学生を対象とする「日本語検定」の体験講座を実施しました!
「おおいち放課後まなびば」で「日本語検定に挑戦!」
日本語検定委員会審議委員長
佐々木 文彦
2025年6月30日(月)に東京都品川区立大井第一小学校で3年生から6年生までの児童を対象に日本語検定の体験講座「日本語検定に挑戦!」を実施いたしました。
大井第一小学校は今年創立150周年を迎える伝統校で、連続テレビ小説『とと姉ちゃん』のヒロインのモチーフとなった大橋鎭子(しずこ)さんや美術家の篠田桃紅さん、俳優の真田広之さんらの母校です。
この学校では、児童が放課後に地域の方や卒業生と交流し、専門的な知識や経験を学ぶことで、興味や関心を広げ、将来の夢を描くきっかけとなる「おおいち放課後まなびば」という活動を行っています。私はこの小学校の校区教育協働委員長として、日ごろから子どもたちの言葉の学びに関心を持っています。このたび、3・4年生(45名)と5・6年生(14名)の2つのグループを対象に授業を担当する機会がありましたので、その様子をご報告します。
3・4年生のクラスでは、まず6級(小学校4年生レベル)の問題から解き始め、5級(小学校卒業レベル)の問題にもチャレンジしました。6級の問題をどんどん解いて、「5級の問題も解けた」と4年生の児童が誇らしげに教えてくれました。
5・6年生のクラスでは5級から解き始め、さらに4級(中学校卒業)、3級(高校卒業〜社会人基礎)、2級(大学卒業〜社会人中級)、1級(社会人上級)の問題も抜粋して配布し、思い思いに興味を持った問題を選んで取り組みました。さすがに1級レベルは歯が立たなかったようですが、中には4級や3級の問題に果敢に挑戦して「出来た」と喜ぶ声も聞こえました。
日本語運用力には小学校・中学校・高校と成長段階に合わせたレベルがあり、無理に背伸びしなくてもよいという考え方もありますが、小学校を卒業した後の自分たちの日本語運用力がどこまで伸びるのか、ちょっと覗いてみて欲しくて、あえてレベル以上の問題にも挑戦してもらいました。難しそうな本を読んで、すべては理解できなくともちょっぴり大人になった気がする、それに似た経験が日本語検定でも出来るのではないか、そんな思いを込めた「挑戦」でした。
6級の漢字の問題では、「親」→「 」→「輪」の「 」に入る漢字を【指・首・切】から選ぶ問題があり、正解は「指」でした。「親指」と「指輪」という言葉を完成させる問題です。このように日本語検定の問題は、単に漢字や言葉の知識だけでなく、それらを組み合わせて考える力も問われます。児童たちが知恵を絞って問題に取り組み、次々と新しい問題に挑戦して楽しんでいる様子が印象的でした。
3・4年生のクラスでも5・6年生のクラスでも「見れた」「来れた」などの「ら抜き言葉」を問う問題については、答えに迷う児童が何人かいました。「そこから見れる?」「みなさんのおかげでここまで来れました」など、日常ではら抜き言葉で表現されることが多く、むしろ「見られる?」「来られました」と丁寧に言う人の方が珍しいという現状で、私にとっても「言葉の正しさ」を説明する難しさに直面する体験となりました。
これからも日本語検定を通じて、自分の言葉と向き合う機会を作り、言葉を見つめ直すことで自分自身と向き合う体験を、児童たちと一緒に続けていきたいと考えています。
佐々木 文彦(ささき ふみひこ)
明海大学外国語学部日本語学科教授。1958年秋田県秋田市生まれ。秋田県立秋田高等学校卒業、東京大学文学部卒業。同大学院博士課程満期退学。専門分野は日本語学。語彙論、語の意味・用法の変化を中心に研究。2018年3月より、日本語検定委員会審議委員。2020年10月より、日本語検定委員会審議委員長。著書に『暮らしの言葉擬音・擬態語辞典』、『暮らしの言葉新語源辞典』(以上、講談社)、『日本語再入門知識編』(日栄社)など。『広辞苑第七版』(岩波書店)の項目選定と執筆(国語項目)に携わる。