対面型授業では気づきにくかった日本語力の質が浮き彫りに

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桜の聖母短期大学

キャリア教養学科教授

加藤 竜哉

 新型コロナウイルス感染対策の一環として,教育機関には遠隔授業が,企業にはテレワークが急速に普及しています。ここでは,短期大学教員の末席に名を連ねる者の一人として,遠隔授業に焦点を当て,そこに求められている日本語力について話してみたいと思います。

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 遠隔授業は,ご承知のようにweb 会議システムを使用したリアルタイム配信方式や,あらかじめ 授業内容を動画として制作し学生が任意の時間帯 に視聴するオンデマンド方式があります。リアル タイム配信やオンデマンドにおける授業形態では, 同じ教室に教員と学生が存在する対面型授業とは 全く異なる空間です。そのような環境における日 本語力は,従来の対面型授業では気づきにくかっ た日本語力の質が浮き彫りになると感じています。


 Web 会議システムを利用したリアルタイム配信 の授業をイメージしてみましょう。教室型授業で いえば学生全員が最前列に,しかも同一距離で映 し出されている光景がそこにあります。教員・学 生は極めて至近距離で授業を行っています。つまりパソコン上に表示されたリアルタイム映像 には,教員・学生の「一挙手一投足」および「話す・ 聴く」という行為全てが拡大表示されています。 たとえば教員や学生の「話す」速度,声の大きさ・ トーン,間・メリハリ,丁寧な言葉づかい・口癖・ 冗長的表現・発言の一貫性の有無などが明確に「聴 き」手に伝わります。また遠隔授業では,プレゼ ンテーションソフトで事前に作成し投影された資 料や事前配布の資料を用いるのが一般的です。リ アルタイムで投影された資料は,パソコン上に次々 と投影されていくため,教員が「書いた」文章の 内容・読みやすさ・理解のしやすさは,対面授業 に比べ大きな比重を占めます。加えて,配信中に 学生の意見をまとめるため、その場で文書作成ソ フトや他のソフトを使い「書き」込み整理する際 には,発言内容からブレずに表記できるスキルも 求められます。「読み」手である学生の理解力向上 のために,高い質が求められます。

 授業の質改善のために,双方向型授業や課題解決型授業,反転授業が取り入れられています。また卒業の質保証の観点からCP(カリキュラム・ポリシー)やDP(ディプロマ・ポリシー)の策定と遵守も求められる時代です。そこに遠隔授業が入ってきました。今後は,対面と遠隔のハイブリッド型が定着すると予想できます。遠隔授業の質を担保する必要があります。遠隔授業は「話す」「聴く」「読む」「書く」という日本語力の質が浮き彫りになる授業です。ID(インストラクショナル・デザイン)に基づく詳細設計・実践と質向上は教員の責務です。教育機関には学生の日本語力の弱点を正確に把握でき,日本語力を伸ばすことのできる仕組み作りと改善が,従来にも増して求められているといえるでしょう。

加藤 竜哉(かとう たつや)

桜の聖母短期大学キャリア教養学科教授。2010 年から短期大学の教育現場にてキャリア開発科目やリメディアル教育に主力を注ぎ、主体的に学ぶ学生を育て地域社会に貢献できる人材育成を行っている。国家資格キャリアコンサルタント(2016 年より JCDA 東北支部福島地区長)。