ポストコロナ社会に向けて、今こそ「日本語」を見直そう!

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愛媛大学

文学部教授

秋山 英治

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、2020 年4 月16 日に全国に出された緊急事態宣言をうけ、大学は臨時休校となり、学生は登学することができなくなりました。これまで当たり前のようにおこなわれていた、学生と教員が一堂に会した対面による授業ができなくなったのです。そこで、パソコンやタブレットなどを使い、インターネットを介した「遠隔授業(オンライン授業)」が導入されることになりました。

 「遠隔授業(オンライン授業)」と一口にいっても、いくつかのタイプがあります。ZoomやTeams などを使ってリアルタイムで配信する同期型は、対面による授業とひじょうに近く、音声や映像によるコミュニケーションが可能です。しかし、授業資料や教材を LMS(学習管理システム:Learning ManagementSystem)に掲載し、一定期間内に課題等に取り組ませる非同期型では、メールやチャットなど文字によるコミュニケーションが中心です。非同期型のなかには、録画した映像を配信するオンデマンド型もありますが、配信では音声・映像が使われるものの、学生と教員のやりとりは文字が中心となります。

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 直に顔をあわせる対面コミュニケーションでは、音声だけでなく、表情・視線・身振りなど非言語情報もあります。それゆえ、ことばの背後にある相手の意図・感情など、深い部分まで読み取ることもできます。しかし、メールやチャットなど文字によるコミュニケーションでは、文字だけで情報を伝えることになります。言語情報の不足を、表情・視線・身振りなどの非言語情報が補ってくれる対面コミュニケーションに対して、文字によるコミュニケーションでは、文字だけが頼りです。

 音声ではうまく伝えられたことが、文字にした途端、思うように伝えられなかったということは、だれしも一度は体験したことがあるはずです。うまく伝えられない原因としては、文字(文章)を書く機会が少ない、つまり経験不足があります。しかし、一番の原因は、日本語力の不足です。日本語力が十分でないために、自分の思いや考えをうまく表現できないのです。文字だけで、相手の思いや考えを正確に読み取り、そして自分の思いや考えを正確に相手に伝えるためには、それができるだけの日本語力が必要です。


 人は、生まれてから多くの人と関わりながら生きていきます。進学・就職など環境の変化によってさまざまな問題に直面したとき、人とどのようにつながることができるかは重要な問題です。新型コロナウイルス感染症によって、人と人の“つながり” が希薄になりつつある今こそ、人と人とをつなぐ「ことば=日本語」の力が必要です。

 新型コロナウイルス感染症により、対面コミュニケーションが難しくなり、図らずも日本語の重要性が顕在化しました。感染症の収束がなかなか見えず、閉塞感漂う現状を打破し、ポストコロナ社会をより人と人がつながるものにするために、今一度「日本語」を見つめ直すときが来ているのではないでしょうか。

秋山 英治(あきやま えいじ)

愛媛県生まれ。愛媛大学大学院法文学研究科(修士課程)修了。愛媛大学法文学部教授。博士(文学)。専門は、日本語学、日本語リテラシー教育。2019 年10 月より、日本語検定委員会研究委員。著書に、『愛媛県東中予方言のアクセントと共通語のアクセント -日本語史再建愛媛大学法文学部 教授 のために-』(おうふう)がある。