令和4年(2022年)秋号 ごけんインタビュー

言葉と向き合うことを楽しみたい 上田 まりえ

 「言葉は変化していく。だから、自分が使っている言葉を定期的に見直す必要がある。」
 そう語るのは、日本語検定審議委員で、タレントとしてマルチに活動する上田まりえ氏。SNS を駆使して精力的に自身の活動を発信している上田さんに、日本語の魅力や、言葉を表現するうえで気をつけていることなどについて、お話を伺いました。

現在のご活動について教えてください。

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 2009年から約7年間アナウンサーとして、それからより幅の広い表現のできる仕事がしたいという思いで、2016年からはタレントとして活動しています。
 タレントに転身してまず考えたのが、日本語との向き合い方でした。アナウンサーの頃にも増して「自分の言葉」が試されると感じました。正しさだけを求めると堅苦しい表現になりすぎて、人としての温度感がなくなってしまうのではないか。けれども元アナウンサーとして、やっぱり正しさは大切にしたい。そんな葛藤があったのです。
 あるとき、その悩みをアナウンサーの大先輩に相談すると、「言葉は自由だから、あなたの好きに喋っていいのよ」と。そう言ってもらえたことで「アナウンサーとして日本語のベースを鍛えられてきたからこそ、より自由に表現できることがあるのかもしれない」と感じました。
 基本が身についていればこそ言葉遊びも楽しいし、崩すことの楽しさ、面白さという「遊び」の部分を感じられる。アナウンサーという仕事をやってきて良かったと思います。

上田さんにとって言葉とは?

 言葉とは「おしゃれ」にも通ずるものだと思います。言葉は自分を表現できるし、着飾ることもできる。品性も出せますよね。使い方ひとつで、いかようにもできるのです。実は今、服飾の専門学校に通っているのですが、そこには10から30代までいろいろな年齢のかたがいます。同じ言語を使っているのに本当に多様で。こんなにも新鮮な気持ちになれるのかと驚いています。

Tik Tok をはじめとするSNSで発信もされていますよね。

 発信する日本語にはものすごく気をつけています。基本的には、どの世代のどんなかたが見ても違和感のない言葉をチョイスする。たとえば、「〜している」と書くか、「〜してる」と書くかのような細かなところも意識しています。
 個人レベルで自由に発信できる今の時代には、間違った日本語も何のフィルターも介さずに流れてきて、それを見た人に知らず知らずのうちに刷り込まれてしまいます。SNS は若年層も見ていますから、使う言葉をとても意識しているのです。


上田さんはスポーツにも造詣が深いですよね。

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 スポーツと日本語の関係性でいうと、スポーツマンに敬語が使えないかたは、ほぼいません。アスリートは縦社会で、礼儀を重んじリスペクトをとても大事にするので、敬語が使えるようになるのです。
 一方で、近頃は学生の延長線上で大人になってしまったのか、敬語を使えない大人が増えていると感じることがあります。敬語を使うべきシーンで、過剰な敬語になったり、へり下りすぎてしまったりする。シーンに合わせた言葉の使い分けができないことで、フォーマルを失い、行動が制限されてしまうのはやっぱりまずい。だからこそ、幼い頃からの周囲の環境、なかでも、家族や学校の先生が使う言葉が大事だと思います。
 緊張感を持って話す場所を意図的に作ることも大事です。それには日頃の何気ない、ラクに話せるシーンのときに、ちょっと堅いシーンを想像して話してみるといいと思います。普段からきちんと考えて話すことを習慣づけていくと、どんなシーンでも話せるようになります。
 言葉は常日頃使っているものですから、磨くチャンスはそれこそ四六時中あるわけです。それをチャンスと捉えるかどうかの違いで、人生の豊かさまで変わると思います。

上田さんから見た日本語検定とは。

 言葉は変化していくものなので、自分が使っている言葉が、今のスタンダードなのか、定期的に見直す必要があると思うんです。そのときには指針となるものを持つことが大切になりますが、それが日本語検定であってほしいなと。言葉が変化していく流れを感じながら、長くお付き合いいただけるといいだろうと思います。健康診断みたいな感覚で、定期的に受けてほしいですね。
 言葉が変わっていくさまも一緒に楽しむと、今の時代を生きている意味がよく感じられます。現代の日常会話が古典の言葉と違うということは、今、私たちが喋っているこの言葉も百年後には古語になっているかもしれない。それって、ものすごくロマンがありますよね。
 同じ国で生きているのに、時代のうつろいの中で、消えていくものもあれば残るものもある。そうした時代のダイナミックな変化を、生きている間に感じられるのが「言葉」だと思います。特に今は変化のスピードが速いから面白い。ぜひ敏感に言葉をキャッチし続け、楽しんでもらいたいですね。

今後の展望について教えてください。

 私の活動には何本かの軸があります。観光大使を務めている鳥取県と愛知県豊田市、野球、そして日本語。一見するとバラバラなもののように感じると思いますが、これらをうまく融合しながら相乗効果になるような活動がしていきたいですね。
 そして、言葉の力を育てるうえでは、家族や学校の先生がものすごく大事な役割を担っていると感じるので、今後は学校の先生や大人の皆さんに対して何かを伝える活動もしていきたいです。

上田 まりえ(うえだ まりえ)

タレント
日本語検定委員会 審議委員

1986(昭和61)年鳥取県境港市生まれ。2009年、専修大学文学部日本語日本文学科卒業後、日本テレビにアナウンサーとして入社。2016年に退社し、タレントに転身。現在は、タレント、ラジオパーソナリティ、ナレーター、MC、スポーツキャスター、ライターなど幅広く活動中。また、アナウンススクールやSNS・セルフプロデュースの講師も務める。2019年、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程一年制コース修了。2021年には「知らなきゃ恥ずかしい!? 日本語ドリル」(祥伝社黄金文庫)を上梓。日本語検定HPにて、「上田まりえ 言葉のキャッチボール」を連載中。

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