令和5年(2023年)春号 ごけんメッセージ

アイドル活動は
言葉を選ぶ作業の連続
寺嶋 由芙

 2022年11月12日、一人のアイドルが日本語検定を受検しました。彼女の名は、寺嶋由芙さん。1・2級を受検し、いずれも見事認定。成績優秀者に贈られる読売新聞社賞を受賞しました。
 そこで、日本語検定について感じたことを存分に語っていただくとともに、アイドル活動における「言葉」の大切さについてご寄稿いただきました。

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 新聞広告で見かけるかわいらしいキャラクター「にほごん」の存在が気になりながらも、なかなか受検に踏み出せない時期が長くありました。昨年春に、十文字女子学園大学のゆるキャラ「プラスちゃん」とお仕事させていただいた際、プラスちゃんがにほごんとも仲良しだということでご縁を繋いでいただき、ついに挑戦! 昨夏よりにほごんとのYouTube番組を更新しながら勉強し、1級、2級を同時受検して、無事認定をいただきました。大好きなゆるキャラのみんなのおかげで楽しく勉強ができたこと、大変ありがたく思っております。

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 日本語検定では、敬語の使い方を問う問題や、意味が複数とれてしまう文を誤解がないよう書き換える問題など、実用的な問題がたくさん出るのでとても勉強になります。漢字の誤字訂正の問題は、スマホやパソコンの予測変換に頼りがちな日々を反省するきっかけになりました。

 このように、実際に「使う場がある」ことは、学んでいく上で大きなモチベーションになります。同時に、自分で「使う場を作りたくなる」ような故事成語や四字熟語を学ぶことができる点もまた、日本語検定の魅力だと思います。

 故事成語や四字熟語は、その言葉ができたエピソードや時代背景を知ると、「昔の人も私たちと同じようなことを考えていたんだな」と、彼らに茶目っ気や親近感を感じられるようになります。
 たとえば私のYouTube でも取り上げた「杯中の蛇影」。「晋の時代の杜宣という人が、持っていた酒の杯に映った弓の影を蛇と勘違いし、『自分は蛇を飲んでしまった!』とショックを受けて具合が悪くなってしまった」という故事から、なんでもないことでも、ひとたび疑い始めると不安の種になるたとえ」という意味ですが、今でも「病は気から」なんて言いますよね。こんな風に、時代も国も超えて共通する感覚があると知ると、先人との繋がりに励まされ、自分もまた、そうやって脈々と繋がってきた人類のうちの一人なのだなと、なんだか壮大な考えにまで至り、目の前のことに頭を悩ませてばかりの日々から少し救われることも。

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 また、私は最近短歌を詠み始めたのですが、31文字という制限のある短歌においては、何に字数を割くかをシビアに推敲する必要があります。そんな時、熟語や諺を使うと、具体的な経験を詳細に伝えるよりもわかりやすく気持ちを詠み込める場合があります。しかし、単に熟語を多用して言葉を縮めればいいわけではなく、あえてひらがなでやわらかくゆったりと残したい歌もある。つまりは、自分の表現したい内容に合わせて選べるように、選択肢を増やしておくことが大切だと思うのです。
 短歌に限らず、Twitter にも字数の制限がありますし、雑誌に寄稿したり、インタビューの原稿チェックをしたりする際も、字数制限を気にしなければならない場面は多々あります。テレビやラジオのコメントにも時間制限があるわけで、アイドル活動は、いただいた枠にどんな言葉を収めるか、選ぶ作業の連続です。

 さらには相手との関係性によっても、選ぶ言葉は変わっていきます。「お世話になっているゆるキャラの担当さんには丁重に敬語を使おう」、「このヲタクの方は私より年上だけど、楽しく話してもらえるようあえて敬語はやめよう」などと考えながら言葉を選ぶ時間は、相手のことを考える時間でもあります。初出演の番組と自分のレギュラー番組ではどうしても硬さが変わりますし、過去の活動を知るために昔の記事を遡ってくださる方も多いAmebablog と、フォロワーの方とリアルタイムでフランクにやりとりできるTwitterでは、言葉のつくし方が変わります。

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 日本語検定受検者の中には、認定をもらった後も「言葉の定期検診」として何度も受検される方がいらっしゃるそうです。これは他の検定にはなかなかないことなのではと思います。言葉は年月と共に変わっていき、それは時に「乱れ」と呼ばれることもありますが、平安貴族たちと現代の私たちが使う言葉は明らかに違うわけで、変化は当然ともいえます。つまり、「絶対的に正しい言葉遣いを学ぼう!」ということは難しい。けれど、時代に即した、その時々に好ましいとされている「型」を知って使えるようにしておくと、それを基準に相手や場面に合わせて硬さ、丁寧さの調整ができます。
 なるべく齟齬なく相手に言葉を渡せるよう、日本語検定を通して基準となる型を学び、必要に応じて調整していく。インターネット上で書き言葉も多用する現代では、誤読のないよう気をつけたり、誤字のないように心を配ったりすることも、言葉を読みやすいかたちに整える、相手への思いやりかもしれません。その上で、口調や文体に滲み出るものを、自分の個性として大切にしていけたらと思っています。

寺嶋 由芙(てらしま ゆふ)

千葉県出身。早稲田大学文学部日本語日本文学コース専攻を卒業。中学校教諭ならびに高等学校教諭一種免許状[国語]取得。キャッチフレーズは「古き良き時代から来ました、まじめなアイドル、まじめにアイドル」。 2013年よりソロアイドルとしての活動をスタートし、2014 年「# ゆーふらいと」でソロデビュー。シングル15 枚、アルバム3 枚をリリースし、精力的に活動中。また、ゆるキャラ好きアイドル「ゆるドル」を自称し、「ゆるキャラ®グランプリ」をはじめ、各地のキャラクターイベントに「ゆるキャラ通訳」としてMC 出演。芸能界で一番のポムポムプリン好きとして、サンリオともコラボするなど、独自のアイドル道を邁進中。