心に届くのは相手に寄り添った言葉。生きた言葉は磨かれた日本語力にこそ宿る

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株式会社エクラ・コフレ17

代表取締役
公認心理師

小高 千枝

“絵本作家になりたい”。夢を叶えるため、一番の読者となる子供の心理を大学で学び、子供と向き合う幼稚園教諭の仕事に就く。子供たちと触れ合うことで、伝えたいことは膨らんでいったが、一方で親の偏った愛情に疑問を持ち始める。折しも“モンスターペアレンツ”という言葉が世に出始めた頃。絵本でどれだけ伝えたくても、子供の感受性が希薄なら届かない。感受性を含めた豊かな人間力の基礎は、日常的に一番近くにいる親によって育まれる。そう痛感した小高氏は、子供も大事だが親(大人)の心理に向き合うことが最優先だと心理学を学び直し、キャリアカウンセラー、公認心理師へとメンタルケアの道を深めていく。現在は、カウンセリング、メンタルトレーニング、コーチングなど、個人から企業に至るまで、「自立」と「自律(セルフコントロール)」のサポートに携わるとともに、子供に限らず大人向けの絵本構想も継続中だ。人の心に寄り添う小高氏が、大切にしているのは伝える、共感できる言葉。だが、若い世代の言葉に対する危機感があると言う。その理由とは?

自分の頭で考え抜いたことだけが自身の糧になる

わが社のスタッフもそうですが、SNS慣れしている20代は、スタンプや短文で会話を成立させてしまうため、言語化、テキスト化するのが苦手な傾向にあるようです。伝える力や語彙力が足りない以前に、対話や議論など深掘りするようなコミュニケーションをしてこなかったことも影響している可能性があります。

言葉で相手の心をサポートする仕事ですから、言葉に対してはうるさいくらいに指導します。スタッフも一生懸命学んでくれるのですが、根本的な文法や敬語などが理解できていないので、届くメールの文章が正確に伝わりづらい。背伸びしないであなたの言葉で伝えてと言うと、状況の背景を省いて自分の言いたいことだけを伝えてくるわけです。「きついメッセージだな」、「本心なのだろうか?」と思い、会って詳細を聞いてみると文章から受けるニュアンスとはまるで違っていることが多々あり、誤解が生じていることも。つまり、正しく伝わっていないということです。また、相手との距離感を理解してない人も多く、私に対しても最初は敬語を遣っていても、柔らかい話題をしたとたん、友達同士のコミュニケーションになってしまう。TPOにフィットした言葉を用いて正しく伝えられないことで、その人自身が損をしているなと感じるのです。

コミュニケーションの貧困は、SNSの進化によるところも大きいでしょうね。昔に比べて今は、人と話さずSNSのやり取りだけで生活できてしまう。さらに、ネットで検索すれば何でも出てきます。誰かの考えを、自分が考えたかのように表面的にとり繕ったことが、それでまかり通ってしまう傾向があり、失敗も痛い思いもしない代わりに、自分には架空の知識や経験しか残らない。解らないことは、自分の頭で考えて、形にして、失敗して、また考えて…を繰り返す。試行錯誤しながら物事を突き詰めて考え抜く力をつけていけば、借り物ではなく自分の言葉で相手に伝えることができます。そのためには、伝えるツールとなる日本語力を磨くことが不可欠です。できれば子供の頃から身につけて欲しいですね。

コロナ禍でコミュニケーションの有り方も変わった
親と一緒に言語化できない子供を支える

コロナ禍で、心に悩みを抱える子供の相談も増えました。オンライン授業になると、学校に行きませんから、休み時間などのいわゆる「余白の時間」がないわけです。友達と遊ぶ、トイレに行く、短い時間でも、子供にとっては友達や先生との貴重なコミュニケーションの場であり、気持ちを解放する場となっていました。ところが、こうした時間が無くなってしまうと気持ちのやり場がなくなり心がモヤモヤしてくる。鬱々とした気持ちを親に伝えたくても、言葉のバリエーションが少ないため正しく言語化できません。そのうち、精神状態が不安定になってしまうのです。

一方、子供同様、親も不安を抱え、日々の生活に追われています。子供のペースに合わせ、子供の話をじっくり聞いてあげる時間も心の余裕もない。教える立場の親が子供と同じ目線になりすぎてしまうと、つい感情的になりやすくなります。子供と真摯に向き合って、論理的に物事を教えるって大変なんです。骨が折れるんです。ですから、子供が納得するまで話し合うことへの抵抗感を抱き、YouTubeやゲームをつい与えすぎてしまう。ですが、これでは親子の対話の溝は深まるばかりで解決にはならないのです。

そこで、私たちのような心理のプロや信頼できる大人が子供の心へ寄り添い、親と二人三脚で子供に向き合っていく。第三者が介入し、冷静に客観的に親子のコミュニケーションを円滑にすることは、今後、徐々に増えていくのではないかと感じます。日本人はいい意味で、「人に頼ってはいけない」、「自分の家のことは自分で収めるのが当然だ」という風潮があります。もちろん、親子関係や家庭環境が健全ならばいいのですが、そうでない場合、子供にとって良い方向に舵を切れるなら、プロと一緒に取り組み建設的に解決するのも1つの選択肢だと思います。1人の子供を育てているのは、親だけではなく子供に関わる多くの大人たちですから。

言葉は人を幸せにも不幸にもする
日本語のレベルを知るには日本語検定が最適!

クライエントの中には、海外赴任されていた方や英語を母語として話される方も多いのですが、「日本語は難しいけれど、意味や漢字の成り立ちを知るのは楽しい」、「美しい日本語はある意味芸術にも値する」と言われる方が少なくありません。美しい日本語で相手に伝えれば、自分自身も気持ちがいいですし相手も心地いい。お互いの心の距離も自然に保てると思います。さらに、言葉は人を幸せに導くこともできますし、心にダメージを与える凶器にもなります。だからこそ正しく遣わなければなりません。正しく遣う意識を持つだけで、コミュニケーション力もアップします。

自分が年齢や職種に応じた正しい言葉を遣えているかどうか。自分の日本語力を把握するツールとして、日本語検定は最適だと思います。さらに、心理分析や性格分析のように、個々に細かい分析をしていただけると受検者の向上心も刺激されるはずです。また、「日常生活の中でもっと正しい日本語を遣いたい」と思っている人が、気軽に受けられるような仕組み作りがあればいいですね。何気ないコミュニケーションを通して、「こんなに豊かな母語の中で自分は生活している」と実感できれば、日本語力を高めることが楽しくなるはずです。これからも、日本語検定に日本語力の底上げを牽引していっていただきたいと思います。

小高 千枝(おだか ちえ)

株式会社エクラ・コフレ17 代表取締役
メンタルヘルスケア&マネジメントサロン代表
公認心理師・心理カウンセラー・メンタルトレーナー・コーチ・キャリアカウンセラー

2007年の開業当時からDV、モラルハラスメント、性暴力被害者支援活動に力を注ぎ、女性支援活動を基軸に男女関係(恋愛、結婚、離婚、不倫、デートDVなど)、うつ、依存症、社会不安障害、対人コミュニケーション、コンプレックスの克服、ライフデザイン、子育て相談、心理分析などの個人カウンセリング、サロンでの臨床をはじめ、企業における人材育成、人事サポート、メンタルトレーニング、コーチング、コンサルティング、講演などを主としサロン運営を行う。
マスコミ関係にも携わっている強みから、芸能関係者やアスリートからの依頼も多く、セルフブランディングやセルフコントロール、メンタルヘルスケアなどのサポートを担い、おひとりおひとりに寄り添うセッションを心掛ける。
心理学をはじめ、人間の老化現象を生物学、医学、社会科学、人間関係学、自然科学など多面的、総合的に研究する学問であるジェロントロジー学を学び、内面から幸福を感じることや自分らしい年齢の重ね方など、自分の人生に主体的に関わる方法を伝えている。
明確な心理分析やメンタルトレーニングは多くの女性をはじめ、著名人からの支持も厚い。報道や情報番組でのコメンテーター、バラエティ番組での心理分析などマスコミ出演多数。著書に「インポスター症候群」(法研)、「本当の自分に目覚める体癖論」(主婦と生活社)他。