「自分の言葉が相手にどう伝わるか?」
心に届けるために大切にしているのは「想像力」と「思いやり」

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タレント

上田 まりえ

「アナウンサーになりたい」と思ったのは小学3年生。初めて買った漫画はアナウンサーを目指す女の子の物語、読み進めるうちに「喋るって面白そう、素敵、かっこいい!」といつしか魅了されていた。漫画の影響で放送委員会にはいり、喋りの世界にのめり込み、ついに憧れ続けたアナウンサーとなった。「まさか、本当に夢が叶うなんて…」と当時をチャーミングな笑顔で振り返る。日本テレビのアナウンサーを経てタレントに転身した上田まりえさん。一瞬で相手の心をつかむ言葉のプロフェッショナルは、日本語とどう向き合ってきたのだろう?

正しい日本語は使い続けてこそ身につく

日本全国の放送局を受けようと思っていましたから、100 局は受ける意気込みでした。アナウンサーの試験は東京の局から始まりますが、なんと1社目に受けた日本テレビで決まってしまって…。本当に信じられませんでした。鳥取の田舎出身ですし、上京して大学のクラスメートに、「上田(苗字)」の訛りを指摘されたぐらいですよ(笑)。1社目でしたので、憧れの職場を見学できる、社員の方と話せる、くらいの心持ちで気負わず臨んだのが功を奏したのかもしれません。とり繕ってもメッキはいずれ剥がれると思っていましたから、7回の面接とカメラテストでは大好きな野球の話ばかりしていました。のちに人事の担当者から「好きなことを楽しそうに話していたのが良かった」と採用の決め手を教えてもらいました。

親のしつけのおかげで、敬語は幼い頃からきちんと話せていた方だったと思います。特にアナウンサーになってからは、仕事だけではなくプライベートにおいても正しい日本語を話すように心がけていました。言葉は日頃から正しく使っていなければ、面接などの緊張する場面でとっさに出てくるものではありません。丁寧に話そうとすればするほど、かえっておかしな日本語になってしまいます。生活習慣と一緒で、身についた日本語は一朝一夕に変えられるものではないんですよね。日本語力は日々の継続で磨かれますから、気になった言葉はすぐに辞書で調べ、外出時は電子辞書を常に持ち歩いています。

相手を想う心が心に届く言葉になる

メディアで話す際に、一番大切にしているのは想像力と思いやりです。特に、テレビやラジオなど対面ではないメディアの場合は、より緊張感をもって話しています。この言葉を使ったら、相手はどう受け取るだろう、傷つく人はいないだろうか。アナウンサー時代から常に意識していることです。そのため、受け手の気持ちを配慮すればするほど、うまく言葉が出てこなくなった時期もありました。ですが、それは言葉を突き詰めているからこそ。立ち止まったことで、伝えることにより真摯に向き合えるようになりました。

また、日本テレビを退社してタレントになった頃、どこまで正しい言葉を使うべきなのかについても真剣に悩みました。特に、ラジオ。丁寧に話しすぎてもリスナーにとって堅苦しいだろうし、だからといって普段のおしゃべりでは軽すぎる。先輩アナンサーに相談したところ「言葉は自由なものだから、あなたの好きなように喋ればいい」と言われました。日本テレビで培った正しい日本語の土台あってのアドバイスだったことは、ラジオを続ける中で徐々に実感しました。さらに、正しい事実を伝えるのは大前提ですが、正しさだけがすべてじゃないということ。受け手によっては、正しい事実よりも、その事実を補う言葉の方が心に響くこともあるのです。

人の個性や人生は言葉選びに現れる

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日本語についての知識や奥深さをお伝えできればと、1年前からTikTok で『上田まりえの日本語教室』というコンテンツの配信を始めました。10~60 秒の短い時間で発信するTikTok は、伝わることが一番大事ですが、それだけではもったいない。豊富な語彙力を使いこなせれば、表現の幅も広がりますし、伝わる質も上がります。さらに、言葉遣いにはその人の個性や人生が表れるもの。皆さんも、仕事やプライベートの会話の中で、相手が選びとった言葉から人間性を判断することってありませんか? 正しい日本語や丁寧な言葉遣いは、その人の写し鏡にもなるのです。

TikTok の中から、100 の日本語を選び、問題形式に解説を入れた『知らなきゃ恥ずかしい!?日本語ドリル』(祥伝社黄金文庫)を7月に上梓しました。執筆する中で、私自身も当たり前に使い、オフィシャルにも使われているから当然正しいと思っていた言葉が、実は真逆の意味だった。なんてこともあり、目の前に複数の辞書を置いて意味を比較するなどして表現の精度を上げていったのですが、かなり大変でした。ですが、辞書を見比べることで、語釈の違いなど新たな発見もありました。皆さんも愛用の辞書をお持ちだと思いますが、ときには他の辞書を見るのも新鮮ですよ。

さらに、現代は情報が溢れていますから知りたい答えを手に入れるのは簡単ですが、取捨選択する能力が欠けている方が増えているように感じます。自分自身にも言い聞かせていますが、ネットで調べて最初に出てきた内容をうのみにするのではなく、辞書をはじめできる限りの情報を集めた中から選び抜く。その方が視野も広がります。答えを早く出すことよりも、自分の頭で考えるプロセスを楽しんでほしいと願います。

日本語検定受検の学びが日本語力を高める

TikTok や書籍に携わり、丸12 年話すことを生業としてきたはずなのに、「こんな言葉があったのか」と思うことも多く、日本語の奥深さを再認識させられました。もう1度日本語を学びたいと思いましたし、基礎となる国語の教科書を読みたくなりました(笑)。言葉は子供の頃から積み上げられたものなんですよね。

日本テレビ時代に「箸の持ち方が美しくないと、両親が恥ずかしい思いをする」と先輩によく言われましたが、言葉遣いも同じ。家庭での言葉遣いは子供の日本語力を育むうえで大きく影響します。そして、当たり前だからこそ難しい。正しい日本語が使えなくても困らないかもしれませんが、せっかく言葉でコミュニケーションができる能力を授けられたのですから、存分に使いこなせた方が豊かな人生を送れると思いませんか?

日本語検定は、日本語の6つの領域(敬語、文法、語彙、言葉の意味、表記、漢字)を、まんべんなく学べます。大人の学び直しにもいいと思いますが、幼いうちから習慣化することで自然に正しい日本語が身につくはずです。正しい日本語を話すことは、日本語を大事にすることにも繋がりますから。私も実際に解いてみたのですが、得手不得手はありました。苦手だったのは手紙の時候の挨拶。かしこまった手紙を書く機会が少なかったので、これを機に書いてみようと思いました。こうした意識や行動を変えるきっかけにもなります。素晴らしい検定ですので、今後も、世代問わず日本語力を高められる検定として、牽引していただけるよう応援しています。

上田 まりえ(うえだ まりえ)

タレント

1986年9月29日、鳥取県境港市生まれ。2009年、専修大学文学部日本語日本文学科卒業後、日本テレビにアナウンサーとして入社。2016年1月末に退社し、タレントに転身。現在は、タレント、ラジオパーソナリティ、ナレーター、MC、スポーツキャスター、ライターなど幅広く活動中。また、アナウンススクールとSNS・セルフプロデュースについての講師も務める。2019年、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程1年制コース修了。2021年7月14日には「知らなきゃ恥ずかしい!? 日本語ドリル」(祥伝社黄金文庫)を上梓。