すべての社会人に総合的な日本語力は必須

photo

ANNコンサルティング株式会社

代表取締役

野澤 夏子

 弊社は、代表である私が電気メーカーに勤務していた時に得た輸出入実務の知見を活かしたいと、輸出入コンサルティングから事業を開始しました。海外企業との取引は、限られた大企業が行うものから、中小企業が日常的に行うものへと変わってきています。海外企業との取引をこれから始めたい、または始めたものの複雑な規制や独特の商習慣に困難を感じている中小企業に対して、必要な仕組みづくりや通関に関する法律面の要件をクリアするための支援を行ってきました。その中で、ただ輸出入に関する知識・スキルを伝えてもうまく回らず、事業を担う人材の育成、チーム力の向上などが必要であることに気付き、それ以降、人材育成分野にも力を入れています。弊社の役割は、国の垣根を越え、ボーダーレスな事業を展開し、世界で戦っていく日本の中小企業を応援することだと思っています。

 会社員時代は、電気メーカーで海外の企業の方々とコミュニケーションをとることが多い部署にいたため、英語で話し、電子メールで英語の文章が書けることは必須のスキルでした。英語が好きだったので、英語を使える職場で働きたいという思いで選んだ職場でしたが、実際に仕事をしてみると単に英語が話せるよりも、相手の要望をつかみ、こちらの希望を伝え、それをすり合わせていく力が要求されていることが分かってきました。それらの行動の基盤となるのは、相手のことを理解し、相手の立場にたって考えようとする心を持っていることです。

 人材育成事業では、新入社員、若手社員、中堅社員、管理職の従業員の方と幅広い職位の研修に携わる機会がありますが、近年とても気になっていることがあります。それは、ある程度の長い文章を書く機会が減ってきたためか、自分の考えを文章としてまとめて他人に分かるように表現することが苦手な人が増えていることです。特にデジタルネイティブと呼ばれる若手社員の方々は、LINE などに代表されるような、特定の相手に対して、短文のメッセージを書くことに慣れていますが、ビジネスで使用されるような文章を書くことは難しい、と感じる方が多いようです。「敬語が苦手です」と言われて話をよくよく聞いてみると、読み手に伝わる文章が書けないことに悩んでいることが往々にしてあります。上司からは「何を言いたいのかが分からない。もっと分かりやすく。」と言われ、途方に暮れてしまっている。

 コミュニケーションのプロセスは、自分の頭の中にある思考を、言語などの記号に置き換えて伝達し、伝達を受けた相手がそれを頭の中で思考に復元することです。発信者の自分の頭の中にある思考と受信者の頭の中に伝わった思考ができるだけ 100%に近い状態にすることが「よく伝わった」ということになります。相手によく伝わるように自分の思考を言語化するのには、言葉の選び方、文章の構造力など様々な力が必要で、そのスキルが欠けているために、伝わらない。日本語でさえも伝わらない。つまり、「よく伝わった」状態にするためには、総合的な日本語力が必要なのに、それを学んだことがない社会人が多いのではないでしょうか。

 日本語検定は、子どもから大人まで幅広い世代の人々が受検をしているとのこと。漢字、敬語にとどまらず、私たちが間違えて覚えている可能性の高い慣用句の使い方、言葉の意味などをカバーするとともに、総合的に読解力を試す問題も含まれていることが特徴的で、実践的だな、と思います。社会人として活躍するためには、相手が言っていること、文章の中の構造を読み解き、理解すること。そして、自分の考えを相手に分かりやすいように構造化し、発信していくその日本語総合力が試されるからです。
 チームで成果を出していくという観点では、「会話が上手である」ことを一般的には期待されている営業職だけでなく、研究開発職、スタッフなど、すべての職種にとって、日本語力を上げて相手に考えを伝え合うことができることが求められていると言えるでしょう。

野澤 夏子(のざわ なつこ)

ANNコンサルティング株式会社 代表取締役

電気メーカーで国内外からの調達部門を経験した後、2007年中小企業診断士として独立。2014年ANNコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。中小企業診断士、通関士(有資格)。