日本語の総合的な能力を測る「日本語検定」(略称・語検、文部科学省後援事業)の2023(令和5)年度第2回(通算第34回)の試験が、11月10、11日に行われました。国内は47都道府県76カ所の一般会場と、学校や企業などを利用した303カ所の準会場、海外は米国(グアム)でも実施され、国内外で計17,286人が受検しました。国内の最年長は大阪府の94歳の男性が2級を受検、最年少は7級に挑戦した兵庫県の5歳の男子でした。

 「語検」は「敬語」「文法」「語彙(ごい)」「言葉の意味」「表記」「漢字」の6つの領域にわたり、日本語を正しく使えるかどうかを測ります。難易度に応じて1級から7級に分かれており、幅広い年齢層がそれぞれの級の認定の取得に挑戦できます。検定結果は12月上旬に公式ホームページに速報を掲載後、12月中旬以降、個別に郵送で受検者に通知します。

東京会場で888人が受検

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 東京の一般会場は大正大学(豊島区西巣鴨)で、午前と午後に分かれて計888人が受検しました。猛暑の後に残暑が長く続いた東京でしたが、立冬を過ぎて時折吹き付ける北風の冷たさに冬の到来を実感する曇天の下、引き締まった表情の受検者が続々とキャンパスを訪れ、検定に臨みました。

「声優を目指して」

 都心の高校で土曜授業を終えて会場に来た江戸川区の高校3年女子は3級に2回目の挑戦。「声優を目指している」というのが受検の動機。中学時代に声優志望を思い立って以来、アニメ作品の台詞やナレーションなど現役声優のさまざまな活躍を見て「言葉で訴えかけるには日本語ができなければいけない」と考えたそうです。言葉を極端に省略する同世代のおしゃべりなど「おかしな日本語」が気になるようになるにつれ「ちゃんとした日本語を話せるようにしたい」との思いも募り、語検を勉強の軸に据えました。専門の養成学校への入学も決まっており、語検で身に着けた日本語力をさらに伸ばし、活かしていく決意です。

「ゆる言語学ラジオ」

 初受検で2級にチャレンジした板橋区の男性会社員(42)は「ゆる言語学ラジオ」という動画配信コンテンツが受検のきっかけ。番組で多用される「母語話者なのに」という煽り言葉に文字通り煽られて、日常使っている日本語をどれだけ正確に理解しているか確かめようと受検しました。結果は「漢字誤りを指摘する問題が難しかった」「正しいものを選ぶ問題も難しい」「そもそも2級は難しい」など苦戦した様子ですが、「自分の弱点ジャンルが分かる検定はありがたい」と前向きに総括していました。

「選択肢が広がれば」

 世田谷区から来た中学2年の女子は初受検で4級に挑戦しました。不登校になって4年目。付き添いのお母さんによると、卒業後の進路が気になり始める時期にさしかかり、どのぐらいの実力があるか知っておきたいと自ら受検を決めたそうです。「必死に準備しているというほどではなかったから、合格できるかどうか…。最近は通信制の高校もいろいろあるし、選択肢が広がれば」と検定終了を待つお母さんでした。

「妻を応援」

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 豊島区から夫婦で来た男性(55)は、初受検で5級に挑戦するタイ人の妻(40)の試験会場入りを見届けると「3級までは取らせたいと思っています」と話しました。長年タイで宝飾品工場を営んでいましたが、実家の事業を継ぐため帰国。「自分も歳だし、何かあったときに備えて。3級があれば就職もしやすい」ということで、手始めに今回の受検を決めたそうです。「今まで私がもっぱらタイ語を話すことが多かったが、日本語中心にして特訓中」と妻を見守っています。

「娘を応援」

 足立区の会社経営の50代男性は、初受検で3級に挑む長女(22)の付き添いで来場しました。電子機器製造関係で中国・深圳に長年駐在し、中国人の妻との間に生まれた長女は大学まで中国で学び、この夏に卒業して帰国したばかり。日本語は得意といえず、日本での将来開拓のため男性が語検取得を薦めました。「日本にこだわらず海外を目指す選択肢もあるが、言葉も文化もまず『日本』を身に着けてから」というのが父親としての願いだとか。語検が未来の選択を決めるきっかけとなるかもしれません。

「母の薦め」

 目黒区から来た小学4年男子は初めての語検で6級を受けました。フランス人の父親の仕事の都合で来日して2年。「難しかった」と言いつつ、「お母さんは日本人。フランスに帰ったとき学校の日本語セクションに戻るには語検6級がないとだめだとお母さんが言うから」と受検の理由を滑らかに説明してくれました。異文化を往復する暮らしの中で、わが子にしっかり日本語を身に着けさせたいお母さんの思いが伝わってきました。

「役立った必勝単語帳」

 初受検で2級に挑戦した北区の大学3年女子は「勉強していたところが問題に出てきたのでびっくり。バッチリです」と嬉しそうにガッツポーズしてみせました。見せてくれたのは東京書籍発行『日本語検定 必勝単語帳』。「コンパクトで移動中とかすき間時間を使って何度も反復して覚えられる」とか。もともと国語が得意で、就職は出版・編集を志望。何か検定取得をと考え、「高校1年で漢検2級を取りましたが、それより上級の漢検はマニアック過ぎて。日本語検定がちょうどいい」ということでした。

「楽しい日本語検定」

 新宿区の50代女性は3回目の1級チャレンジ。「今回が一番悪い点数かも。でも何度でも受けたくなるほど語検は楽しい」と満足そうです。編集の仕事で医師や編集者とメールをやりとりすることが多く、「どなたも高い教養を持った人たち。思いもよらない言い回しや表現に出会う。わからないと恥ずかしいし、適切に返信できているかも気になる」という理由で語検を選び、2級合格後から毎年1級に挑戦。「仕事でも語検でも、いろいろな言葉や表現に出会うのが楽しい。語検を始めてからより敏感になった。面白くて役に立つ検定ですね」と、語検の楽しさが尽きない様子でした。

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「未知の日本語を体験する楽しさ」

 1級受検会場から出てきた都内のサラリーマン男性(25)も語検の面白さに「はまった」人でした。会社の指示で2級を受けたのが始まりで、1級合格後も1級受検を繰り返しているそうです。「毎回知らない言葉や表現に出会えるのが楽しい」というのが一番の魅力ですが、漢字や文法に加え「シチュエーションを踏まえた敬語の使い方も含め日本語をこれだけ網羅的に点検できる検定はほかにない。実用性の高い検定だと思う」と断言。上級ベテラン受検者の立場から初心者向けにヒントをとお願いすると、「未知の表現、わからない言葉をその都度調べる心掛けは必要。日常の中でそれを積み重ねていけば」ということでした。

「目標は1級だけど…」

 豊島区から来た60代女性は2級に2回目の挑戦でした。ライターの仕事を目指していて、募集要項に「語検1級」とあったのがきっかけですが、「2級になかなか受かりそうにない」と苦笑い。学生時代から国語が好きで、成績も良かったということですが、語検では実力を発揮しきれない様子。「前から順番に解いていくんですが、いつも時間が足りなくなる。後半の長文問題でひっかかったりてして」とのこと。受検テクニックの問題のようにも思えますが、「とにかく出直します」と再挑戦を誓いました。

「受けてみると面白い」

 港区の高3男子は初受検で3級に挑戦。「理由ですか?親に言われたんで」と楽しからざる表情でしたが、国語は得意科目で、いざ検定に臨んでみると「分かりそうで分からないところを突いてくる問題もあるし、こんな言い方あるのかという言葉も出てくるし、楽しめたですね」。

「就職に備えて」

 千代田区から来た大学院2年目の女子学生は初受検で2級にチャレンジ。校閲関係の就職を考えていて、語検2級以上を選考の加点対象としている企業もあるというのが受検の理由。受けてみると「結構難しいですね。確信が持てません」とやや険しい表情。合否にかかわらず語検が日本語力をさらに深めるきっかけになるかもしれません。

(時事通信社編集局 大澤克好)