第14回日本語大賞


受賞のことば

各部門の最優秀賞である文部科学大臣賞を受賞された方のことばをご紹介します。



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    小学生の部 文部科学大臣賞

    山口県
    敬愛小学校 4年

    安田 彩乃

     このたびは、文部科学大臣賞という素晴らしい賞をいただき、ありがとうございます。このお知らせを聞いたとき、私は喜びと感げきで、むねがいっぱいになりました。受賞を知った家族も友達も、まるで自分のことのように喜んでくれました。自分の思いを言葉にするということが、こんなにも自分や周りの大切な人の心を温かくするんだな、と改めて実感しました。

     私は作文を書くことが大好きです。自分の気持ちにぴったり合う言葉を探せたり、場面の様子をうまく表現できたりすると、何とも言えない、晴れやかな気持ちになります。今まで知らなかった、新しい言葉に出あうと、日本語の美しさや意味の深さ、言葉の広がりを感じて、わくわくします。日本語大賞に応ぼした作品も、こんなふうに、自分のまわりにある言葉と楽しく向き合いながら書きました。

     この作品を書いたとき、母は入院していました。でも、私が作文を書いたのは、さびしかったからではありません。病院にいる母や、私を見守ってくれている家族に、私は元気だよ、大丈夫だよ、と伝えたかったのです。母が入院した最初の数日間は、さびしい気持ちもあったけれど、作文を書いていくうちに、私はどんどん元気になりました。もしかしたら、書くことで自分をはげましていたのかもしれません。私はこの作品を通して、言葉には、自分や大切な人を元気づけるやさしい力があると気づくことができました。言葉の持つ温かさに気付かせてくれた日本語大賞に、感しゃの気持ちでいっぱいです。

     私は今も、家族や友達から、心がほっとする言葉をたくさんもらっています。「ありがとう」「がんばってるね」「大丈夫だよ」。どの言葉も、私の大切な宝物です。私の心にはいつも、みんなからもらったやさしい言葉がかがやいています。悲しいことや困ったことがあったとき、この言葉たちが私をはげまして、勇気づけてくれます。そして、みんなからもらった言葉のぬくもりが、私の体中に広がっていくような気持ちになります。文部科学大臣賞をいただいた日から、私は作文を通して、この温かさを大好きな人に伝えたいと思うようになりました。私はこれからも、言葉の向こうに大切な人たちの笑顔を思い浮かべながら、作文を書いていきたいと思います。

     本当にありがとうございました。



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    中学生の部 文部科学大臣賞

    埼玉県
    さいたま市立大谷場中学校 1年

    本山 みい

     この度は文部科学大臣賞という大変栄誉ある賞を頂戴し、光栄に思います。まさか自分が賞をとれるだなんて思ってもいなかったのでとても驚き、同時に嬉しく思います。また受賞した際に親にこちらの作文を見せたのですが滅多に涙を流さない母が目を潤ませて読んでいました。改めて祖母の生き様を思い出させていただいた日本語大賞委員会の方には感謝してもしきれません。

     さて、私がこの作文を書いたきっかけをお話したいと思います。はじめは些細なものでした。そろそろ祖母の三回忌ですし、「何か祖母に感謝を伝えるようなものが書きたいな」くらいの気持ちでした。しかし書き進めるうちに、小四の夏に感じたあのなんともいえない虚無感が襲ってきました。これは大変だと思ったのです。自分に向き合って、気持ちを清算することも大切だと。

     心は思うだけでは相手に届きませんし、言わねば伝えることができません。そんなメッセージを私は皆さんにこの作文を通じ届けたかったのです。人の命は有限で、散るときは電球のようにぷつりと途切れてしまいます。しかし、亡くなった人の想いは、関わった人の心の中に留まります。当たり前だけど大切なことなのだと思います。そんなことを気づかせてくれた祖母に私はこれからも感謝して生きていきたいと思います。

     終わりにこの作文を読んでいただいて、少しでも介護に携わる方、大切な方を亡くしてしまった方の力になれればと思います。



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    高校生の部 文部科学大臣賞

    千葉県
    和洋国府台女子高等学校 2年

    和佐間 芽弥

     この度は、栄誉ある文部科学大臣賞にご選出いただき、誠にありがとうございます。受賞したことを、とても光栄に思います。この知らせを受け取った時は、嬉しさと驚きの余り泣いてしまいました。きっと、母もあちらで大好きなビールで乾杯しながら今回のことを喜んでくれていることと思います。

     振り返れば、文章を書くきっかけは自分への慰めでした。決して長くはない十七年の人生で休む暇もなく自身の身に降り注いだ出来事の数々について、一つ一つ心の整理をつけていくことはとても時間がかかる上に、自身を何度も振り返るため精神的にも少し辛かったのです。月日がたち心が穏やかになってきた頃、いつも脳裏によぎるのは、この地球上には私と似通った気持ちを持って生きている子がいるのではないだろうか、という漠然とした思いでした。家族や友人や先生といった沢山の人が私を支えてくれたけれど、もしかしたらその子は頼るあてもなく、あの辛い、悶えるような暗い気持ちで毎日をそっと生きているのかもしれない。もしかしたら、かつての自分のようにその心の闇に飲み込まれ、自身の命さえ軽く見ているのかもしれない。その子に「ひとりじゃない。私はここにいる。私は貴方が頑張っているのも分かるよ。きっと大丈夫だから。」と伝えるために、「一番つらかったあの頃の私がかけてもらいたかった言葉」を追い求めて書いたのが、今回受賞した「貴方の言葉は八年越しに、」でした。

     私が母と共に歩めたのは十年にも満たない月日ではありましたが、私は母から言葉の大切さというものを教えてもらいました。毎日母が私に言っていた「メミはママにとっての大切な宝物です。いつもありがとう。大好きだよ。」という言葉は、日記を通して私に光をもたらしてくれました。

     言葉はとても美しく、優しいお天道様の様なあたたかさを人々にもたらしてくれます。ですが、使い方を間違えれば、それは時に人の命さえ簡単に奪ってしまう恐ろしい凶器へと変わってしまうのです。そんな「言葉」と共に人生を歩む中で、私達はこれからも沢山の言葉と触れ合うことで成長していきます。もしかすると、何気なく発した一言は知らず知らずのうちに、誰かにとって大切な言葉となってその人を救っているのかもしれません。私は、母のようなあたたかな言葉をかけられる素敵な人になりたいと思います。

     母を初めとする日々私のことを支えてくれる友達や先生、選出してくださった審査員の方々、そして本作品を読んでくださった皆様に心より感謝致します。



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    一般の部 文部科学大臣賞

    石川県

    豊 恵子

    このたびは、栄誉ある文部科学大臣賞を頂戴し、誠に光栄であり感謝の念に堪えません。

     受賞を知ったのはメールからでした。その日は大寒波で外の景色はすべてが雪に埋もれて真っ白の銀世界。窓越しに深く積もる雪を眺め、ふとスマホのメールに気付き驚きました。

    [【第14 回日本語大賞】受賞のお知らせ]という件名に「えっ?」思わず声が漏れ出て、慌てて眼鏡をかけ直しました。受賞報告書類の郵送が天候不良による遅延のため、先にメールでのご報告という内容でした。地元では26 年ぶりの氷点下5度という記録的な寒気。それに反比例するように私自身はうれしさに胸が高鳴り体温がぐんと上がったようでした。そしてすぐに仏壇の夫へ受賞の旨を報告しました。

     夫が亡くなり涙と悲壮感にまみれた陰鬱なこの一年。やり場のない心情を文字に託しながら、ようやく心のバランスを保ってきた自分にとって受賞の知らせは何にも代えがたい最高の贈り物でした。

     昨年、日本語大賞を知り、頭の中にある言葉を整理して組み立てようと思い立ちました。内に閉じ込めていた心境を発散し、改めて記録できる大きな好機だと捉えました。

     もともとはグラフィックデザイナーとしてデザイン事務所に勤めていました。広告や雑誌などの仕事で、制作規模や予算次第ではデザインだけでなくライターや編集も兼務しながらの場合もありました。それから紆余曲折を経て教員免許を生かし、教育機関で働く日々がありました。授業で教えるのとは反対に何かと学ばされることも多く、迷い考え悩み、駄目な自分に葛藤する時期も過ごしました。誰にでもありがちな心折れるあれこれ。理不尽に思う出来事には苦悩や鬱憤を文字に吐き出し、読んでくれる夫の受容と共感を得て気持ちを消化することもありました。一線を退き、これまでの人生を振り返れば、文字と真摯に取り組む機会は比較的多かったようです。そんなこともすっかり忘れつつある自分でした。

     今回、予定されていた表彰式が(新型コロナウイルスの感染が収束していない状況から)執り行われないこと、残念で寂しい心持ちです。自分の名前を呼ばれ賞状を読み上げられ、うやうやしく受け取るという一連の動作である授与。若かりし十代の頃は、卒業式に必須の卒業証書授与さえも時間の無駄ではないかと軽視していました。しかし人生の節目となる大事なイベントの場において、手から手への授与が本人にとって大切な価値ある儀式であること、それを今回の式が流れたことにより身をもって知るに至りました。ただ、参列者方への安全確保の優先は至当な判断であり異論はなく、来年度以降は受賞者のためにも式が安心して執り行われる状況であればと願います。

     改めまして、この賞の選考に携わられた審査委員の先生方へ、厚くお礼申し上げます。埋もれることなく選出していただき感謝の気持ちでいっぱいです。

     また、何より書かせてくれた夫のおかげです。夫とともに二人で取れた賞だと思っています。掛け替えのない思い出をくれた夫へ、そしてこれまで私たち夫婦を支えてくださった方々へ、心から深い感謝の意を表します。

     本当にありがとうございました。