日本語・英語連携教育による
英語力向上について
関西国際大学教育学部
初等英語コース 講師
三好 徹明
本稿では、母語である日本語と外国語である英語の連携教育(以下、日本語・英語連携教育)において、英語力の向上の視点からその指導方法と効果について考えたいと思います。現行学習指導要領(平成29年・30年告示)の小学校国語科では、「言語能力の向上を図る観点から、外国語活動及び外国語科など他教科等との関連を積極的に図り、指導の効果を高めるようにすること」(下線は筆者による)というように「教科間連携」に関する記述があります。ちなみに、中学校と高等学校の国語科においても同様です。
それでは、国語科と外国語科(英語科)との関連を積極的に図り、英語力を向上させることとはどのようなことをさすのでしょうか。また、国語科が外国語科(英語科)との関連を図り、「英語力」向上の指導効果を高めるためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。
1つめの問いに対する答えとして、国語科と外国語科に連携において、児童生徒が母語(日本語)に対する気づきの言語感覚(「メタ言語意識」(metalinguistic awareness))や、母語を客体化して観察し、その観察で得た知識(「明示的知識」(explicit knowledge)を英語に当てはめて理解し説明する言語能力(「メタ言語能力」(metalinguistic ability))を活用し、英語を適切に使用する能力を向上させることが考えられます。これらの意識・能力は「メタ認知(metacognition)」のひとつとも言われています。
2つめの問いに対する答えとして、授業において、母語である日本語の文字や音声、語彙などの言語形式に関して、子どもが意識や注意を払うしかけを作ることが考えられます。指導者には、子どもたちがふだん何気なく使っている日本語を客観的に捉える練習をさせることで、言語のしくみ(言語構造)やはたらき(言語機能)に対する意識や態度を育てる資質・能力を持つことが求められます。その際、言語学(日本語学や英語学など)における知識、第二言語としての日本語教育、英語教育における指導法と言語学習方略に関する知見を取り入れるなどの工夫が必要になってきます。
国語(特に現代文)では、既に母語として話せる日本語を扱うため、学習者が言語形式そのものに注意を向け、まとまりのある文章を文法的に説明することがなかなか難しいと言われることがあります。しかし、母語である日本語も、外国語である英語も、「言語」という括りで見れば同じ仲間です。「言語」の構造や機能に共通点があれば、そのような言語学的な知識を日本語や英語などの個別言語の捉え方に生かすことが可能です。例えば、中学校の国語の文法において学ぶ「品詞(parts of speech)」を取り上げてみます。名詞、動詞、形容詞、副詞などの品詞の概念について。これらの品詞の概念を英語にも同様に適用して考える活動を導入して、日本語の助けを借りて英語(厳密に言うと、英語の語彙の働き)を明示的に理解し習得のための練習を行います。しかし、日本語にはない英語の前置詞については、母語である日本語の助けを借りてその概念や意味機能をまず理解する必要があります。その際に、日本語の助詞に関する知識があれば、前置詞の理解が容易になります。これを「正の言語転移(positive language transfer)」といいます。動詞に関しては、英語の場合、自動詞(「眠る(sleep)」、「走る(run)」など、目的語を直接必要としない動詞)と他動詞(「本を読む(read a book)」、「車を運転する(drive a car)」など「~を」にあたる目的語が必要な動詞)の概念と意味機能を母語である日本語の助けを借りて理解します。このような学びを行うことで、日本語と英語には共通する概念(品詞)があり、英語の動詞に関しては、動詞を中心とした統語構造を持っているため、文中での語順も日本語よりも厳密に決まっていることを学びます。
現行学習指導要領のもとでは、国語科と外国語科において、日本語と英語を連携させながら学習対象言語である日本語や英語の言語能力を身に付け、高めていく学びが学習者や指導者に期待されています。しかし、上記で述べたメタ言語意識、メタ言語能力を育てるには、日頃の学習過程で、子どもたちが「ことば(の学習)にはある一定の共通のルールがある」ということに気づかなければなりません。そのためには、母語である日本語の豊富な語彙知識が一定程度必要です。そのような語彙知識について日本語検定等の外部検定試験で受験級ごとに語彙知識を体系的に測定し、学習者あるいは指導者が自分の日本語力を確認するのは有効であると考えています。
国内の英語教育に関するセミナーや学会などのコミュニティでは、大津由紀雄氏(関西大学客員教授・慶應義塾大学名誉教授)が「ことばへの気づき」を提唱してから、メタ言語意識やメタ言語能力に関する議論が以前に比べると盛んに行われるようになってきました。しかし、国語教育では、国語科と外国語科の連携、メタ言語意識やメタ言語能力に関する議論が少ないように思われます。今、教育現場で国語を指導される先生方の意識改革が求められているように思います。
三好 徹明(みよし てつあき)
関西国際大学教育学部(初等英語コース) 講師
愛媛大学大学院法文学研究科修士課程人文科学専攻修了。専門は英語教育学、英語学、初等中等英語教育、教科教育学、第二言語習得。大学院では英語学(理論言語学)を学ぶ。高校英語教師として勤務した実践的経験から、英語学の英語教育への応用、教室内第二言語習得、コミュニケーション、インタラクション(相互行為)に関心がある。現在、大学生を対象に語彙を中心とした日本語と英語の連携教育や連携学習について、共同研究に取り組んでいる。
主な著書:『グローバル人材育成教育の挑戦 : 大学・高校での実践ハンドブック』(共著、IBCパブリッシング)、『英語好きな子に育つたのしいお話365 : 遊んでみよう、聞いてみよう、話してみよう体験型読み聞かせブック』(共著、誠文堂新光社)