日本語・英語連携教育による
日本語力向上について

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実践女子大学国際学部
実践女子大学短期大学部

教授

大塚 みさ

 若い世代、特に大学生の日本語力が低下しているということがしばしば話題になります。そして、その原因として活字離れが指摘されることも少なくありません。確かに書物や紙媒体の新聞を読む機会は世代を問わず減少傾向にありますが、大学生が授業内外で活字を読む機会は決して少なくありません。

 もちろん学問分野による差はありますが、大学生が日本語を書く機会も以前よりも増えているようです。試験やレポートに加えて、授業内、そして事前・事後学修として学生たちが書く文字の量は増加しています。さらに、ITツールが進化したことで、その場で即座に文章化したり、それが教室のプロジェクタに投影されたりする機会も増えました。実際、これを「書く」力を鍛える機会ととらえる学生もいます。そしてそれは同時に自分の日本語力の不足に気付く機会ともなっているのかもしれません。

 筆者が初年次リテラシー教育科目(レポート作成法、プレゼン手法等を扱う新入生対象の科目)を担当する関東の私立A大学1年生のクラスで、5月半ばにアンケートを実施してみました。「特に増やしたい語彙」(複数回答可)を尋ねたところ、以下が上位に上がりました。

 ・新聞やビジネス誌、ニュースなどのカタカナ語(例.「リスキリング」「スキーム」)…86.4%

 ・新聞やビジネス誌、ニュースなどの抽象的な漢語(例.「施策」「腐心」)…81.8%

 これに「日常使われる抽象的な漢語(例.「委託」「遺憾」)」(63.6%)が続きます。また、これらの語彙・表現について困難を感じる場面を聞いたところ、「新聞記事による情報収集時に出会う難しい表現は逐一調べるのが面倒であり、また内容が頭に入ってこない」「ニュースなどのカタカナ語や聞きなじみのない言葉によって、意味が十分に理解できないことがある」「レポートを書く際、自分の語彙だけで表現すると乏しい文章になってしまう」といった回答がありました。

 さらにはアクティブラーニングの浸透により、授業において「話す」機会も増えています。しかし、プレゼンテーションでうっかりくだけた表現を口にしてクラスメートに指摘されたり、グループワークで自分の意見を適切に言語化できずに悩んだりする学生も少なくありません。

 以上のような大学生の悩みを解決してくれる一つの頼もしい選択肢が、「日本語検定」です。特に「語彙」や「言葉の意味」の領域でバランスよく語彙を増やし、類義語との微細な意味の違いを見極める目を磨けることは大きな魅力だと言えるでしょう。

 さて、前置きが長くなりましたが、今回のテーマである「日本語・英語連携教育」に関して日本語力向上の観点から筆者が行った取り組みを簡単に報告したいと思います。

 実のところ、大学の授業において複数の教科間で連携を行うことは一般的ではありません。また、大半の大学で英語授業が必修化されている点に比べると、日本語力に特化した科目の設置やその必修化は多いとは言えず、レポート作成などを中心に初年次リテラシー教育科目で扱われる場合も少なくありません。特に日本語のレポート作成指導と英語のライティング指導とが別々の方法で指導され、それが学生の混乱を招く点が惜しいと感じられてきました。

 そこで筆者は英語教育担当の同僚と共に、2023年度関東の私立B大学の初年次のリテラシー教育科目と英語の必修科目とを密に連携させた「書く」指導を試みました。具体的には、接続表現を活用した文章の論理展開やパラグラフ・ライティングを中心にあえて英語授業で先に導入して、翌月日本語授業で反復することでメタ認知能力の機能を狙う教育実践です。その結果、連携を行わなかった前年度よりも効率的に指導を行うことができ、92.3%の学生から「効果的」という評価を得ることができました。学生たちからは「同じ内容で学ぶことで定着率が上がった」「日本語と英語の用語が統一されていたので効率的に学ぶことができた」「どこかで似ている部分があってスッキリ感じた」といった意見が寄せられました。

 連携に際しては、使用する用語の統一に加えて教材や図解方法等も共通化し、指導法について意見交換するなど担当者間での密なコミュニケーションを重ねました。このような言語や科目の垣根を跳び越えた連携を、まずは教員間で率先して実施できたことが成果につながったと実感しています。

 現在は上記の教育実践をさらにブラッシュアップするとともに、語彙力強化につながる日本語・英語連携教育のパイロットスタディを進めています。学生たちの日本語力向上に資する教育手法の確立を目指し、さらなる可能性を探り続けていきたいと思います。

大塚 みさ(おおつか みさ)

実践女子大学国際学部・実践女子大学短期大学部 教授

東京都生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。
専門は日本語学(語彙・辞書)、日本語リテラシー教育。
主な著作に『やさしい言語学』(共著、研究社)、Dictionnaire Assimil Kernerman:Japonais(Japonais-Français Français-Japonais)(共編、Assimil)など。