上田まりえ「ことばのキャッチボール」

 先日、久しぶりにお昼ごはんを外で食べました。近所に新しくオープンしたおしゃれなカフェで、1人のんびりと過ごすランチタイム。天気も良く、大きな窓からは太陽の光がたっぷりと差し込んできます。店内は幅広い年代の女性客で賑わい、少しずつ日常が戻ってきていることを感じさせる空間でした。新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、時が止まっていたこの2年。こういう“当たり前”がいかに大切なものだったのかということを改めて感じています。

 私が席に着くと、目の前には2人の女子大生がいました。長い髪は綺麗に巻かれ、流行りの服に身を包み、お洒落なネイルをした指先でスマートフォンを操作する彼女たち。フライドポテトをフォークでつつきながら、お互いの恋愛の話で盛り上がっていました。その姿がとても微笑ましく、キラキラと輝いていてまぶしい! 結婚してからまもなく丸5年を迎える35歳の私にとって、「恋バナ」は懐かしさを感じるもののひとつになりました。恋バナって、なんであんなに楽しいのでしょうか。時代は変わっても、恋愛の話は普遍的なものですよね。

 ちなみに、「恋バナ」という言葉は、辞書にも掲載されています。2014年発行の三省堂国語辞典第七版に追加されました。「恋の話」が略され、いつの間にか当たり前に使われるようになった「恋バナ」。このようなくだけた言葉(俗語)が辞書に載るようになると、時代の変化を感じます。

こいばな[恋バナ](名)〔←恋話(コイバナシ)〕
〔俗〕恋愛に関する話。
(三省堂国語辞典第七版より引用)

 さて、話をカフェの店内に戻します。注文したスモークサーモンのクリームパスタがテーブルに運ばれてきました。お腹が空いていたのと1人だったこともあり、勢いよく食べ始めた私。女子大生たちの会話は途切れることなく、クリスマスの過ごし方について移行していました。そのときです。パスタをくるくるとフォークで巻く私の手が止まりました。

クリスマスは、マイメンと過ごすんだよねぇ〜

 「マイメン」—SNS上でなんとなく見聞きしたことがある言葉でしたが、実際に使われているのを初めて聞きました! みなさんはご存知ですか? 意味や使い方がわからなかったので、インターネットで検索してみました。

マイメン[まいめん]

<語源>
英語の「my man(マイ・メン)」が語源。「my man」とは、ヒップホップでよく使われる語。「Hi,Brother!(よう兄弟!)」 などと同様に「Hey,My Man!(おっす!)」とあいさつや呼びかけに使われる。「my member(マイ・メンバー)」の略語という説もある。
<用法>
家族や親友、尊敬している人など、とても親しい間柄の人や仲間に対して使われる。恋愛においては、女性が付き合っている男性(彼氏)に対して使う。

SNSで「#マイメン」がどれだけ使われているか、こちらも調べてみました。

Instagram……12.3万件
TikTok……30.1M視聴

<関連するハッシュタグ>
「#マイメンしか勝たん」「#マイメン募集」「#マイメン大切」など
(2021年12月現在)



 大学生くらいまでの若い世代の人たちの中では、一般的に使われている語であることは間違いないようです。そのうち広い世代に浸透するようになって、「夫がさぁ〜」を「マイメンがさぁ〜」なんて言う妻たちも出現するのでしょうか……。

 それにしても、若い人たちの言葉遊びのセンスには驚かされることばかり! もちろん、TPOをわきまえて使うべきではあるし、ひたすらに崩すことを推奨しているわけではありません。ただ、言葉を楽しむことの大切さに気づかされることもあります。目くじらを立てるばかりではなく、新しいものを受け入れていく。こうして歴史は繰り返され、私たちが今使っている言葉も存在しているのだと思います。タイミングがあれば、その言葉を口に出してみてください。怪訝に思っていても、新たな発見があるかもしれません。

 件の女子大生が言っていた「マイメン」は、文脈から「サークルの仲間」などの友人のことを指しているのだと思われます。「マイメンと過ごすクリスマス」だなんて、なんだかウキウキしてくる響きで、とても楽しそうですよね。職業柄、「今どんな言葉が使われているのかな?」と街中で聞き耳を立ててリサーチしています。コロナ禍で外出する機会や人と会う機会が減り、人の声に触れる機会もテレビやラジオ、SNSの中だけになっていました。女子大生たちの会話を聞き、「生の声」や「生の言葉」に触れることの大切さを改めて感じたのでした。彼女たちがマイメンと素敵なクリスマスを過ごせますように。

 みなさまも、どうぞお体に気をつけて、素敵な年末年始をお過ごしください!

上田まりえ

タレント、日本語検定委員会 審議委員

1986年9月29日、鳥取県境港市生まれ。2009年、専修大学文学部日本語日本文学科卒業後、日本テレビにアナウンサーとして入社。2016年1月末に退社し、タレントに転身。現在は、タレント、ラジオパーソナリティ、ナレーター、MC、スポーツキャスター、ライターなど幅広く活動中。また、アナウンススクールとSNS・セルフプロデュースについての講師も務める。2019年、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程1年制コース修了。
2021年7月14日には「知らなきゃ恥ずかしい!? 日本語ドリル」(祥伝社黄金文庫)を上梓。