上田まりえ「ことばのキャッチボール」

 新年度がスタートしてから早くも丸2か月が経過しました。生活が一変したという方も多いのでは? かくいう私も、大型連休を過ぎても落ち着くことなく、バタバタとした毎日を過ごしております。4月から新しいラジオ番組を担当することになり、上旬に初回収録が行われました。テレビ局のアナウンサー時代を含め、メディアの世界に飛び込んで14年目の春を迎えましたが、まっさらな状態からスタートする番組を担当するときは、いまだに背筋がピンとなります。入学式の感覚に似ているといいましょうか。この世界に入ってから改編期(テレビやラジオなど、番組が入れ替わる時期)である春と秋に、何度も大きな別れと出逢いを繰り返してきました。番組を離れるときは「卒業」という表現をされることが多いため、学校生活と重ね合わせることが多いのかもしれません。

 小学校、中学校、高校、大学、そして社会人10年目の春に大学院と、4度の入学式を経験した私。実は、この春、5度目の入学をしました。今回は専門学校です。学びたいことや研究したいこと、好きなことや興味のあることがたくさんあり、何にするか、何から形にするか、ずっと悩んでいました。人生の時間を考えると、できることからやっていかなければ学び尽くすことはできません。「仕事や家庭のことも考えると、タイミングは今だ! 今しかない!」と意を決して願書を提出。面接、学費の振込み、オリエンテーション(説明会)を経て、4月末から授業が始まりました。社会人向けのカリキュラムで、週末に授業が行われます。クラスメイトは25人。全員女性で、年齢も経歴も職業も種々様々です。先日、隣の席に座った女性は、なんと高校を卒業したばかりの18歳! 鳥取から上京したばかりの垢抜けない自分を思い出し、その大人っぽさに驚きました。イマドキの若者は、セルフプロデュースの達人が多いですよね。服装もメイクも、自分に似合うものを見つけて、上手に楽しんでいるように感じます。おっと、昭和が出てしまいました。おそらく私がクラス最年長。授業以外にも学ぶことがたくさんあり、刺激を受けています。

 1回目の授業の最初の時間は、もちろん自己紹介に充てられました。先生から名前を呼ばれた人から順に、自分の経歴と学ぶ理由や目標について話していきます。25人全員の自己紹介を通して、改めて感じました。自己紹介って、本当に大事!!(この一文、大文字でお願いします) 私は職業柄、自己紹介をする機会がとても多い方だと思います。人前で直接話すだけではなく、テレビやラジオなどのメディアを通して行うこともあるし、老若男女、幅広い人に向けて話すこともあれば、特定の集団に対して話すこともある。その対象やシチュエーションも実に様々です。アナウンススクールで講師を務める中でも、自己紹介、すなわち“自分のことを人に伝える力”を育てることに重きを置いていました。なぜならば、自分のことすら人に伝えることができない人が、人に何かを伝えることは到底不可能であると思うからです。アナタは人にきちんと届く自己紹介ができていますか? 今回は、私が思う自己紹介のポイントの基本編をお伝えします。

自己紹介のポイント〜基本編〜

人に聞こえる声で話しましょう!
当たり前のことではありますが、できていない人が結構多いと思います。声が小さいと何を話しているかわからず、聞いている人たちをモヤモヤさせてしまいます。内容以前の問題です。広い空間や賑やかな場所などでは声が届きにくい場面もあるかと思いますが、みんなに聞こえる声を意識して話すといいでしょう。反対に、大きすぎるのも問題です。近い距離であまりにも大きな声で話されても、驚いてしまいますよね。
自分の名前は、自分で言いましょう!
これも当たり前のことですが、人に紹介されてから話す際に、いきなり内容を話し出す人がいます。たとえ名前を呼んでもらったとしても、もう一度、自分で名前を言いましょう。自分の名前を覚えてもらうために自己紹介をするはずなのに、自分で言わないだなんて横暴だと思いませんか? 聞いている人たちが、アナタの名前の読み方やアクセントを確認することもできるので、とても親切です。
定型文を作らない!
特に就職活動中の学生さんにありがちなのが、自己紹介の暗記。30秒〜1分くらいの原稿を作り、それを暗記して話す人がいますが、聞いていてすぐにわかりますよね。内容はもちろん大切ですが、覚えたものを「披露する」よりも、ちょっとたどたどしくても「伝えよう」と話す人の方が、一生懸命聞こうと思いませんか? もちろん内容も大切ですが、その時々で自分の言葉で話すのは、とても大切なことです。もし「緊張して、何を言ったらいいのかわからなくなる!」という人は、「この部分だけは絶対に言うぞ!」というポイントだけ決めておくといいでしょう。

 3つのポイントには、共通点があります。それは、「T P Oに合わせること」と「相手を思いやる気持ちを持つこと」です。相手や場所が変われば、自己紹介の仕方も自ずと変わってきます。人に聞いてもらえる話をするためには、人にきちんと届けることを意識して話す。自己紹介に限らず、他者とコミュニケーションをとるうえで、とても大切なことです。どうか心に留めておいてください。内容編は、また次回にご紹介します!

 余談ですが、18歳の女性から「その歳になっても学ぼうとする気持ちがすごい!」と言われました。その言葉を聞いて、「歳を重ねること=停滞すること」と捉えられているのかもしれない感じて、ちょっぴり寂しくなりました。むしろ、年齢を重ねているからこそ学ぶことは楽しいし、学んだことに対して実感が持てます。ただ学ぶのではなく、自分の生活や仕事に落とし込んで活用することができるからです。そして、学べることのありがたさを心から感じています。いつか日本語について研究するために大学院に行くのも、目標のひとつです。日本語検定委員会審議委員を務めるようになってから、その想いは一層強くなっています。より良い「ことばのキャッチボール」ができるようになるために……私自身はもちろんのこと、みなさんのお手伝いができるよう、学び続けます!

上田まりえ

タレント、日本語検定委員会 審議委員

1986年9月29日、鳥取県境港市生まれ。2009年、専修大学文学部日本語日本文学科卒業後、日本テレビにアナウンサーとして入社。2016年1月末に退社し、タレントに転身。現在は、タレント、ラジオパーソナリティ、ナレーター、MC、スポーツキャスター、ライターなど幅広く活動中。また、アナウンススクールとSNS・セルフプロデュースについての講師も務める。2019年、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程1年制コース修了。
2021年7月14日には「知らなきゃ恥ずかしい!? 日本語ドリル」(祥伝社黄金文庫)を上梓。