上田まりえ「ことばのキャッチボール」

 前回に続き、自己紹介をするときのポイントをお伝えします。今回は、肝心要の内容編です。基本編のポイントを踏まえて、読み進めてくださいね!

 先日、あるスポーツチームのチアリーダーのみなさんに、話し方についての講義を行いました。メンバーは約20人。最初に一人ずつ自己紹介をしてもらったのですが、その一回で顔と名前を一致させ、話の内容も含めて完璧に覚えることができたのはわずか5人ほどでした。多かったのは、話の流れや内容が断片的なもの。例えば、次のようなものです。

みなさん、こんにちは。私は◯◯(名前)です。好きな食べ物は、◯◯です。得意なダンスのジャンルは、◯◯です。みんなに元気を与えることができるチアリーダーになりたいです。よろしくお願いいたします。

一見すると、とてもオーソドックスな自己紹介。しかし、想像してみてください。20人が同じような話をしていたとしたら……あなたはきちんと覚えることができるでしょうか? 人の印象に残る自己紹介にするためには、どうすればいいのか。添削していきます!

添削1
話の内容に具体性がなく、流れが断片的であるため、いちばん伝えたいことが何かわかりづらい。

好きな食べ物の話を入れるのであれば、しっかりとしたエピソードを入れるか他の部分に関連づけたほうがよいでしょう。例えば、好きな食べ物が「唐揚げ」であるとします。

好きな食べ物は唐揚げです

これだけだと、「ふーん」「そうなんだ」で終わってしまいますよね。では、ここに少しエピソードを加えてみましょう。

好きな食べ物は、唐揚げです。好きすぎてスナック菓子感覚で食べられてしまうので、気がついたら50個も食べていたことがあります!

もちろん、これはあくまで一例です(気がついたら唐揚げを50個食べていただなんて、どんな状況なんだろう……)。しかし、ただ「唐揚げが好きです!」というよりも、「唐揚げを50個も食べられる人」と、相手に覚えてもらうためにインパクトを与えることはできます。具体的な数字を入れることも、効果的な手法の一つです。

もし唐揚げが好きな人がいたら、一緒に美味しい唐揚げを食べにいきたいので、ぜひ声をかけてください!

こういう一言が添えてあると、「あとで声をかけてみよう」となりやすいですよね。会話のきっかけになるようなことも織り交ぜるとよいでしょう。

また、「唐揚げ」というワードをフックにして、話をまとめることも可能です。

好きな食べ物は、唐揚げです。好きすぎてスナック菓子感覚で食べられてしまうので、気がついたら50個も食べていたことがあります! ちなみに、私たちのホームスタジアムの唐揚げはとっても美味しいので、ぜひ試合を観戦する際に食べてみてくださいね!

「これだけ唐揚げが好きな人が美味しいと言っているのだから、さぞ美味しいのだろう!」と説得力を持たせることができるうえに、とても自然にPR活動をすることができます。さらに「とっても美味しいので」という言葉で片付けるだけではなく、今まで食べてきた他の唐揚げと比較してどのような特徴があるのかという情報も加えると、より効果的に伝わるでしょう。

添削2
この話が伝わるのか、話す相手によって見極める

ダンス未経験者の私。「得意なダンスのジャンルは◯◯です」と言われたときに、ふんわりとしたイメージはできても、しっかりと理解することができませんでした。そのダンスについて一言説明したり、可能であれば「こんな感じのダンスです!」と実際に踊ってみるなどしてもよかったかもしれません。チアリーダーチーム内やダンス関係者に対する自己紹介であれば、もちろん「得意なダンスのジャンルは◯◯です」だけで問題はありません。

伝える相手や時と場所が変われば、自ずと伝え方も変わってくるはずです。伝える相手がどのような人なのかを考えること。そして、相手にどのような印象を持ってもらいたいのか逆算すること。伝えたいことを伝えるために、伝わる話し方をすることが大切です。

添削3
“抽象的”ではなく、“具体的”な表現を心がける。

みんなに元気を与えることができるチアリーダー

一体、どんな人のことをいうのでしょう? 何をしたら、人に元気を与えることができるのでしょう? そんな疑問を少しだけ持ってみてください。

また、「与える」という言葉を「届ける」に変えてみるといいかもしれません。

人に元気を与えることができるチアリーダー

人に元気を届けることができるチアリーダー

少し印象が変わると思いませんか? 「与える」という表現は、時に相手に押し付けるように聞こえたり、上から目線であるかのように受け取られるケースもなきにしもあらずです。より適切な表現を選ぶことを、日頃の会話の中から習慣化していきましょう。

それでは、自己紹介のポイントをまとめます。

自己紹介のポイント

人に聞こえる声で話しましょう!
自分の名前は、自分で言いましょう!
定型文を作らない!
人に聞いてもらう話をするための工夫をしましょう!
抽象的ではなく、具体的な表現を心がけましょう!
自分を知ろう!

 6つ目に書いたように、自己紹介をするうえで最も大切なのは「自分を知ること」だと思います。相手の印象に残るために、「何かおもしろいことを言わなければ!」とがんばる必要もないし、「何かすごいことを言わなければ!」と背伸びをする必要もありません。自分にとっての当たり前が、思いのほか人にとって特殊だったり、特別だったりするもの。また、少し言葉を加えたり、表現を変えるだけで、あなたらしさや個性を出すことができます。

 最初の印象はとても大切。ずっと付き合いが続く人もいれば、二度と会うことがない人もいます。一期一会を大切にするためにも、今一度、あなたの自己紹介を見直してみてはいかがでしょうか?

上田まりえ

タレント、日本語検定委員会 審議委員

1986年9月29日、鳥取県境港市生まれ。2009年、専修大学文学部日本語日本文学科卒業後、日本テレビにアナウンサーとして入社。2016年1月末に退社し、タレントに転身。現在は、タレント、ラジオパーソナリティ、ナレーター、MC、スポーツキャスター、ライターなど幅広く活動中。また、アナウンススクールとSNS・セルフプロデュースについての講師も務める。2019年、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程1年制コース修了。
2021年7月14日には「知らなきゃ恥ずかしい!? 日本語ドリル」(祥伝社黄金文庫)を上梓。