『ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)』、みなさんはご覧になりましたか? 「野球と結婚して“野球まりえ”になりたい!」と夢見ている私にとって、まさに夢のような大会。連日、素晴らしいプレーを観ることができたうえに、侍ジャパンの優勝という最高の結果でしたね。毎日、本当に楽しかった!また、声出し応援も解禁され、かつての活気も戻ってきました。スポーツの現場において歓声は空気を作る、いわばBGMのようなもの。選手のプレーに、観客が沸く。観客の声援に、選手が応える。人が生み出すパワーの大きさに感動している、そんな春です。
今回のWBCをはじめ、サッカーのワールドカップやオリンピックなど、さまざまな競技のスポーツ中継を観る中で、元アナウンサーとして、伝え手として、とても気になっていることがあります。それは、ヒーローインタビューでのインタビュアーの締めコメント。
定型文のようになっていて、よく耳にするフレーズだと思います。私が気になっているのは、最後の「おめでとうございました」の部分。共感してくださる方がどのくらいいるのか、こちらも非常に気になるところです。
新人アナウンサーのときに担当したヒーローインタビューで、私もこのフレーズを使いました。緊張して言い忘れないよう、手元のメモにもしっかりと書き記して準備しておいたのです。「〇〇選手でした! おめでとうございました!」ー歌い上げるように大きな声で言い切り、一層大きく沸き上がる拍手と歓声にホッとして、マイクのスイッチをオフにしました。その翌日のことです。出社すると、入社20年を超えるベテランアナウンサーから呼ばれました。
私の頭の中は「???」です。訳がわからず、何も答えられずにいると、先輩は次のように説明してくれました。
それはもう、ものすごい衝撃でした。それまでの私は、アクセントや発音、正しい日本語ばかりを気にして、ちゃんとしたアナウンサーになろうと努力していました。プロとして仕事をするうえで、テクニックや知識はもちろん必要。しかし、表面的なことばかりを気にするのではなく、まっすぐ気持ちを届けるために言葉を選び、丁寧に紡ぐことこそが、本物のプロなのだと気づきました。
どうでしょう。みなさま、心当たりがあるものはありますか? 言われてモヤモヤしたことはありませんか?
先輩から指摘を受けて以来、ヒーローインタビューに限らず、お祝いの気持ちを伝える際に過去形を使うことはなくなりました。過去でも、現在でも、おめでたいことには「おめでとうございます」と言うようにしています。決して「おめでとうございました」が不適切であるというわけではありません。ただ、「おめでとうございました」に違和感を覚える人がいるのも事実なのです。
大切なのは、自分が発する言葉について考えること、また、言われた人がどのように受け止めるか想像すること。思いやりと想像力を持って、言葉を届けたいですね。もちろん、最も大切なのは、心からの「おめでとう」の気持ちです! 新年度に入り、新生活が始まった今、お祝いの気持ちを伝える機会も多分にあると思います。みなさまにも考えてみてほしいと思い、今回のコラムのテーマにした次第です。ぜひ、あなたの意見もお聞かせください!
上田まりえ
タレント、日本語検定委員会 審議委員
1986年9月29日、鳥取県境港市生まれ。2009年、専修大学文学部日本語日本文学科卒業後、日本テレビにアナウンサーとして入社。2016年1月末に退社し、タレントに転身。現在は、タレント、ラジオパーソナリティ、ナレーター、MC、スポーツキャスター、ライターなど幅広く活動中。また、アナウンススクールとSNS・セルフプロデュースについての講師も務める。2019年、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程1年制コース修了。
2021年7月14日には「知らなきゃ恥ずかしい!? 日本語ドリル」(祥伝社黄金文庫)を上梓。