日本語クリニック

 前回「蚊」や「蛾」など、語形が1拍の語をいくつか取り上げました。では現代語の中に名詞や感動詞など自立語として使うことのできる1拍語はいったいどのくらいあるでしょうか。また、1拍語として使われていない音(おと)があるでしょうか

 下に示すのは『新選国語辞典 第10版』(以下『新選』)をもとにして、筆者が作成した1拍語の一覧です。日本固有のことばである和語は太字で、中国から伝来した漢語は細字で示してあります。×は「常用漢字表」にない漢字(表外字)であること、▲は同表にない音訓(表外音訓)であることを意味します。

 『新選』では「あっ」という促音入りの形で驚きを表す感動詞が立項されていますが、促音が入るかどうかは驚きの強弱に合わせて変わるものであり、弱く発すれば「あ」を感動詞として認めることもできます。『三省堂国語辞典 第8版』(以下『三国』)など、そのように判断し感動詞の「あ」を見出しに立てる辞書もあります。それゆえ「あ・あっ」どちらもあると捉え、話しことばでは感情の起伏に応じて「あ」に近いか「あっ」に近いかが変わるとしておきます。書きことばでは促音の代わりに「あ!」のように感嘆符を用いることもあります。表記上は1拍ですが、発音するとなれば、1拍よりも長くなります。このような理由により、以下、感動詞については(一部ほかの品詞も)、『新選』にないもので『三国』に載っているものは、「あ(三)」のように示します。それから驚きを表す「えっ」は『三国』では促音入りで立項されています。ここでは促音の入った形を1拍語に準ずるものとして掲げておきます。『大辞林 第4版』のように「え」で立項する判断もありうるからです。なお「お・おっ」のように両方の見出しが『三国』にある場合、「お」のみを記します。

※「つ(津)」のように古語では1拍語であっても、現代語として一般には使われないものは除外してあります。
(三)
衣 医 易 威 胃 異 意  × ×
× × うっ(三)
絵   × えっ(三)
  (三)
加 可 果 河 科 華 禍 寡 課   火 夏
我 賀 ×蛾 雅 ×駕 (接続詞)
気 忌 奇 軌 記 期 機    己 季 ×癸 紀
×妓 技 義 儀 議
きょ 居 挙 虚
九 区 句 苦
具 愚
×卦  けっ(三)
下 ×偈
孤 弧 個  
五 呉 後 期 語 碁
左 差 (三)
士 子 四 市 死 刺 師 ×梓 嗣 詩 資 糸 詞 氏 しっ(三)
地 字 ×痔 辞 持
    × × ×
図 頭
 ▲ 
×楚 祖 租 粗 (三)
しゃ 社 射 ×紗 斜
じゃ 邪 蛇 じゃ(接続詞) じゃ(感動詞、三)※別れのあいさつ
しゅ 首 ▲株 主 朱 種
じゅ 寿 ×綬 儒 ×頌
しょ 書 署 緒
じょ 女 ×恕 序
他 多 
地 治 知   ちっ(三)
 (接続詞)
斗 徒 途 ×堵  × 都 (接続詞)
土 度
ちぇ ちぇっ(三)
ちゃ
ちょ 著 緒
 
二 
ぬっ(三)
     (感動詞)
破 派 覇      (感動詞)
妃 否 非 秘 ×婢 碑 ×緋    × × 比 飛
美 微
ぴっ(副詞、三)※電子音
訃 負 符 ×腑 賦 譜 ▲斑 府 歩 ×麩
武 部 分 歩
× (三)
×輔   歩
×戊
  魔 (三)
×   ×
  (感動詞)
 ×  (副詞)
野   × (感動詞)
余   (三)
利 理 里
炉 ×櫓 ×絽 魯
りょ ▲呂
和  (三)
(三)

 「か」のように同音語が多いものもあれば、「ゆ」のように一つのみのものもあります。一つであれば、その分、耳で聞いて理解するのも容易です。

 「きゃ・きゅ・ぎゃ・ぎゅ・ぎょ・ぞ・だ・つ・ちゅ・てぃ・とぅ・にゃ・にゅ・にょ・ぱ・ぷ・ぺ・ぽ・べ・ひゃ・ひゅ・ひょ・びゃ・びゅ・びょ・みゃ・みゅ・みょ・る・れ・りゃ・りゅ」には、いくつかの辞書を見ても現代語としては1拍語がありません。さらに外来語音の「スィ・ズィ・シェ・ジェ・ツァ・ツィ・ツェ・ツォ・イェ・ヒェ・ニェ・ディ・ドゥ・テュ・デュ・ウィ・ウェ・ウォ・ファ・フィ・フュ・フェ・フォ」にも1拍語が存在しません(外来語音は城生・松崎(1995)の74ページにある表を参考にした)。

 上にひらがなで書いたもののうち「きゃ」「ぎゃ」は促音入りの「きゃっ」「ぎゃっ」であれば『大辞林 第4版』に見出しがあります。それから筆者の思いつくままに記すと「ぎょ・ぎょっ(驚き)」「ちゅ・ちゅっ(「ちゅう(キス)」の短い形)」「つ・つっ(痛み)」「ぷ・ぷっ(笑い)」「ぺ・ぺっ(吐く(まねをする)ときの音)」「べ・べっ(「あかんべい」の短い形)」「ひゃ・ひゃっ(驚き)」といった例も挙げられます。

 一覧に1拍語がある音(おと)についても「い・いっ(驚き)」「く・くっ(苦しみ)」「ぐ・ぐっ(苦しみ)」「げ・げっ(驚き)」「ぞ・ぞっ(「ぞぞ」の短い形)」「と・とっ(「おっと」の短い形)」「な・なっ(「なに」の短い形)」「に・にっ(「にっと笑う」さまを口に出す)」「ひ・ひっ(驚き)」「ふ・ふっ(笑い)」「ぶ・ぶっ(驚き)」「ほ・ほっ(安心・驚き)」「む・むっ(「むむ」の短い形)」などが口に出す可能性を持つ言い方として使われることがあります。以上に見たものの中には、漫画やアニメの影響によるものもありそうです。漫画で「怒!」と書いてあって「ど・どっ」と読ませるということもあります(「いかり」と読まれる可能性も)。物がのどに詰まったときに、「か・かっ」と発することがありますが、ここまで来ると生理的な音(おと)と感動詞との区別が難しくなります。

 名詞として「みょ」や「りゅ」が使われる可能性はないかもしれませんが、人の声、物体の音、効果音として漫画・アニメなどで使われ、ある程度、一般に広まるということはあるかもしれません。

 以上で現代語に使われる1拍語のおおよその範囲が確認できました。感動詞は単独で使われるので、ほかの語と紛れる恐れの小さい品詞です。一方、名詞は前後の助詞などと区別できることが必要ですが、1拍語には語の特定がしにくいとの問題がつきまとうので、カタカナで書くなど何らかの手当てが施される場合があります。話しことばでは語形の補強が行われることがあります。語形の補強とは「菜」「葉」を「菜っぱ」「葉っぱ」と言い、「輪」を「輪っか」と言うように、形を長くして語の特定を容易にする方法です。ただしくだけた語感になりますので、書きことばには向きません。同様に「酢」「茶」「麩(ふ)」「湯」に「お」をつけて「お酢」「お茶」「お麩」「お湯」(いずれも美化語)とすることにより聞き取りやすくする方法もあります。書きことばでは美化する必要がなく、漢字により前後のことばとの区別がつくので、次の文の「茶」のように「お」をつけずに使われます。

現在、峡谷や低地に茂っていた樹木の多くは姿を消し、水田や茶、コーヒー、ゴム、サトウキビを栽培する農園に変わってしまった。

ジェン・グリーン『ナショナルジオグラフィック世界の国 ベトナム』2009年、ぽるぷ出版

 上に「漢字により」と書きましたが、「麩」や「箕」の場合、漢字だけで書くと、字が難しくて読めない人が出てきます。したがって、×と▲のついた語を使わざるをえない場合は、「箕(み)」または「 」のように読みがなを初出の際につけるのが読み手に親切な書き方です。

注 阪倉(1993)に1拍語の歴史的変遷が詳述されています。

参考文献 阪倉篤義(1993)『日本語表現の流れ』岩波書店
城生佰太郎、松崎寛(1995)『日本語「らしさ」の言語学』講談社

中川秀太

文学博士、日本語検定 問題作成委員

専攻は日本語学。文学博士(早稲田大学)。2017年から日本語検定の問題作成委員を務める。

最近の研究
「現代語における動詞の移り変わりについて」(『青山語文』51、2021年)
「国語辞典の語の表記」(『辞書の成り立ち』2021年、朝倉書店)
「現代の類義語の中にある歴史」(『早稲田大学日本語学会設立60周年記念論文集 第1冊』2021年、ひつじ書房)など。

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