出典は漢籍でございますが

紅一点

王安石「詠柘榴」の「万緑叢中紅一点」より。「一面の緑の中に一輪の紅色の花が咲いている」の意から、多くの中で異彩を放つものや、男性集団の中にただ一人いる女性のこと。

 異彩を放っているかは知れぬが、集団の中の異色な一人という状況になりやすい。

 例えば、歴史を専攻したくせに修士課程に進んでから国語科の教員免許を取ることにした折だ。当然、志願者の大部分は学部生で、数少ない院生は当方以外全員が国文科だった。出身大学は学籍番号の冒頭の数字を見れば、学部生か院生か、身分が判明する仕組みになっている。しかも、 旧弊 きゅうへい なことに諸々の選抜の合否当落は所定の掲示板に貼りだされる。

 要するに、院生の通過人数は一目瞭然で、常に集団行動をとる国文科の面々は互いの状況を把握している都合上、我が合否まで先方に筒抜けなのである。「あの歴史の人、受かったんだ」などとひそひそやられる居心地の悪いこと。プライバシーも何もあったものではない。

  斯様 かよう に、たった一人の異質な他者とは要らぬ好奇の目に晒され平安と縁遠い。しかし、男女共同参画道半ばのわが国では、男性集団の中に申し訳程度の女性が混ざる構図は少なくない。

 そこで、勤務先の大学にて、男女格差をテーマにレポートを出題したところ、こんな総括をする答案があった。

 「僕はこの課題をやって(執筆して、と書いてもらいたい)、日本にはこんなに男女格差があるのかとショックを受けた。このレポートを読んだ人は自分にできることから格差解消の取り組みを行ってほしい」

 さて困った。レポートの読者が当方一人に限られるからではない。答案の中では「何事も男女を同数にすること」が解決策として提案されていた。これを実現するには、クラスの女子履修者の数に合わせ、まずは男子の履修者を一名だけ残して追放するところから始める必要があるのだが、格差解消に向け改革を断行すべきか。

 双方の幸福のためにも、一点などとケチなことを言わずザクロがたわわに実る未来を迎えたい。

香山 幸哉(かやま ゆきや)

日本語検定公認講師

専攻は歴史学。文学修士(慶應義塾大学)。2017年から日本語検定公認講師。
高校教員(国語科)を経て、現在は複数の私大で日本語、文章指導の講義を行う。