上田まりえ「ことばのキャッチボール」

 2か月ほど前のある夜のことです。友人との楽しい食事でほろ酔いになった私が最寄りの駅に着いたのは、夜の10時過ぎ。家までの道の途中にある広場で、20代半ばと思しき男性4人組が缶酎ハイを片手に楽しげに語らっていました。少々酔っ払っている様子だったので、早く通り過ぎようとスピードを上げたその瞬間、私の耳に衝撃的な言葉が飛び込んできました。

ここでバチ飲みしてアウトするかぁ〜、どっか店に入ってアウトするかぁ〜。どうする!?

 「バチ飲みしてアウト……!?」 はじめて聞くフレーズに、一瞬にして頭を支配された私。少し離れた木の陰で立ち止まり、スマートフォンに「バチ飲みしてアウト」とメモをし、すぐにインターネットで検索しました。早く家に帰りたかったのに、気になって、気になって……。「アウト」については、若者たちの酔っぱらい具合とジェスチャーなどから、おそらく「解散」という意味なのだろうと捉えました。問題は、まったくの初耳だった「バチ飲み」です。「バチ飲み」とインターネットで検索して出てきたのは、某飲料メーカーが提唱し、九州地方から広まったとされる「バチ割り」という飲み方のみ(鉢の中に氷を入れて焼酎を注ぎ、それを杓子で取り分けて飲む……という飲み方だそうです。豪快!)。「バチ飲み」とは、一体……!?

 それからというもの、XやInstagramなどのSNSで「バチ飲み」と入力して、さまざまな投稿を調べてみました! 投稿をいくつかピックアップしてご紹介します。

バチ飲みしよう♡

久しぶりにバチ飲みしたい!

今日はバチ飲み会!

今日はバチ飲みするぞ!

一人で〇〇(某ファミリーレストラン)でバチ飲みした!

丸の内のおしゃれなレストランでランチして、ワイン飲んだ♡ #OLの休日 #バチ飲み

終電までバチ飲みした!

なんで月曜日からバチ飲みしちゃったんだろう……

ウーロン茶バチ飲み!



 まとめてみると、下記のようになります。


  • 一人でも、少人数でも、大勢でも、「バチ飲み」
  • 友だちでも、職場の人でも、「バチ飲み」
  • 居酒屋でも、レストランでも、「バチ飲み」
  • 朝でも、昼でも、夜でも、「バチ飲み」
  • 1杯しか飲まない場合は「バチ飲み」ではないが、泥酔するほど飲むことだけを指すわけではない
  • 「バチ飲みしたい」と予め決めていることもあれば、「結果的にバチ飲み」になってしまうこともある
  • お酒以外の飲料も「バチ飲み」することがある

 Xで一番古い「バチ飲み」と書かれた投稿は、2011年1月のものでした。2020年以降、投稿数が劇的に増えていることがわかりました。また、Instagramで「#バチ飲み」とつけて投稿された写真や動画は15件ほどしか確認できませんでしたが、「#バチ飲み会」「#バチ飲みしてからの家飲み」など、「バチ飲み」に関連するさまざまなハッシュタグが存在していました。

 また、昨今は「バチバチに〜」と使う若者も多いですよね。「(髪型や服装を)バチバチにキメる」「バチバチにかっこいい・かわいい!」「バチバチにトレーニングする」など、見聞きすることがあります。「ばちばち」は本来「“ぱちぱち”よりも強く火花が散る音や様子」のことを指し、喧嘩やライバル関係など「対立」「闘争心」に関する表現として使用されます。私の年代では、「バチバチに〜」と話している人がいないので、ここはバチバチネイティブな若者に聞くしかない! 先日、表参道の美容院でカラー剤を浸透させている間に、女性スタッフ(26歳 )に尋ねてみました。「『今日バチバチだね!』みたいな感じで使います!」とのことです。本来の意味とは違い、「めっちゃ」のように程度の強さを表現したり、「完璧なおしゃれ」という意で、若者たちは「バチバチ」を使っているよう。おそらく、この「バチバチ」が、「バチ飲み」にも反映されていると思います。

 いろんな人の「バチ飲み」に関する投稿を見ていて感じたのは、「バチ飲み」の定義が広く、多様な「バチ飲み」が存在していることでした。しかし、あえて辞書に載せるように意味を定義するとしたら、このようになるでしょう。

ばちのみ[バチ飲み](名)

〔俗〕気を許せる友人や仲間と「今日は飲むぞ!」という心持ちでお酒を飲みに行くこと。2020年代から使われるようになった俗語。

 テキストとともに投稿されている写真を見ると、少〜大人数で、杯を片手にいい笑顔をしている人たちばかり! いい会であることや関係性の良さが伺えます。

 「バチ飲み」についてリサーチする2か月の間、周囲の人にも「”バチ飲み”という言葉を知っていますか!? 使ったことがありますか!?」と聞いてみましたが、一人もいませんでした。しかし、語呂の良さからか、気に入る人が多いこと! 早速、トークやSNSで「バチ飲み」を使いこなす強者もいました。口にしやすいこと、SNSで書きやすいこと、ハッシュタグにしやすいことが、言葉を広めるスピードを上げることを実感したのでした。

 歓送迎会やお花見のシーズン真っ只中。きっと、お酒の席も増えるかと思います。くれぐれも飲み過ぎには注意して、大切な仲間との親睦をバチバチに深めてくださいね!(使い方、合ってる!? 教えて、若い人!!)

上田まりえ

タレント、日本語検定委員会 審議委員

1986年9月29日、鳥取県境港市生まれ。2009年、専修大学文学部日本語日本文学科卒業後、日本テレビにアナウンサーとして入社。2016年1月末に退社し、タレントに転身。現在は、タレント、ラジオパーソナリティ、ナレーター、MC、スポーツキャスター、ライター、講師など、幅広く活動中。2019年、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程1年制コース修了。2021年には「知らなきゃ恥ずかしい!? 日本語ドリル」(祥伝社黄金文庫)を上梓。