上田まりえ「ことばのキャッチボール」

 4月下旬、今年度1回目の日本語検定委員会審議委員会が行われました。6月と11月に実施される日本語検定の前後に集まり、問題の内容や認定の基準点について検討します。私は2021年9月より審議委員を務めていますが、会議の日は目覚めた瞬間から背筋がピシッと伸びているような気分になります。名実ともに日本語のエキスパートである理事と委員の先生方のお話は学びと気づきの宝庫。「私のような若輩者がいてもいいのだろうか……」と自分の未熟さを感じるとともに、私なりの目線と意見を持って参加するという目標を達成すべく、タレント活動や日常生活において日本語とより一層深く向き合うようになりました。

 問題内容の検討以外にも、日本語についての種々様々な情報が共有され、論議が行われます。今回の会議で話題にあがったのは、「Chat GPT」や「ことばの正しさやふさわしさ」についてです。SNSの普及によって、誰でも公に発信できるようになってからというもの、「ことばの変化のスピードが速い」と感じながら過ごしてきましたが、最近ではそのギアがもう一段階上がっているという実感があります。AI(人工知能)を利用して何かを生み出すことが、珍しいことではなく日常になりつつある今、ことばも大きな過渡期に直面しているのです。日本語検定に関心を寄せてくださっているみなさんは、「ことばの変化」を敏感にキャッチしていることと思います。

 ことばを届けることを生業として15年目に入りましたが、私が年を追うごとに強く感じているのは「基準の大切さ」です。ここで、「スポーツ」を例に考えてみましょう。スポーツにルールが存在しているのは、なぜか。みなさん、ご存知ですか? 簡潔にまとめると、公平性と安全性を担保し、おもしろさを保障するためです。また、各競技のルールは、時代に合わせて改正されています。ルールがあるからこそ、選手と観客、世界中の人々が平等に楽しむことができ、ひいては競技の普及や競技力の向上へと繋がるのです。

 話を「ことば」に戻しましょう。ことばにも基準となる表現、より適切とされる表現があります。例えば、放送にのせることばには、基準となるルールが設けられています。テレビは、不特定多数の人に向けて発信するメディアです。住んでいる地域によって方言が存在しており、同じ語でも意味が大きく異なることばもありますよね。また、年齢が違えば、使用することばに違いが生じることもあります。「共通語」や「標準語」と言われるものが存在しているのは、コミュニケーションを円滑にするためなのです。

 また、日本語はとても繊細な言語です。「て・に・を・は」をはじめ、助詞が変わると、意味が変わってしまうこともあれば、伝わり方や印象が大きく変わってしまうこともあります。助詞に関しては、今回の会議でも「適切に使うことができている人が減ってきている」という意見があがっていました。小中学生向けの塾を運営している私の友人からも、「助詞をうまく使うことができない子どもが増えているから、助詞に特化したドリルを用意して、授業とは別に取り組ませている」という話を聞いてはいたのですが、年齢関係なく深刻であると言えそうです。助詞だけではなく、敬語やら抜き・さ入れ、漢字の表記など、問題として捉えなければならない日本語表現は山積しています。間違っていても伝わるかもしれないけれど、せっかくならば、相手に誤解や不快感を与えることなく、事実や想いをまっすぐ届けたい。より適切な表現を選ぶことが、豊かなコミュニケーションや人間関係に繋がるはずです。

 スポーツもことばも、基準があるからこそ、より自由に、より自分らしく楽しむことができるものであると思っています。本コラムでも何度もお伝えしているように、ことばは変化するものであり、決して否定したり排除したりするつもりはありません。しかし、せっかく「変化」をするならば、「退化」ではなく「進化」していきたいですよね。日本語検定が、みなさんの日本語力の進化のお手伝いができれば幸いです。日本語検定では、ことばの変化についても慎重に議論し、問題に取り入れています。「一度受けたから、大丈夫!」ではなく、健康診断のような感覚で、定期的に受けてもらえると、日本語の今とあなたの今を感じてもらえるのかなと思います。令和5年度の第1回検定の締め切りは、5月12日(金)です。学校や職場、ご家庭で、ぜひご検討ください!

上田まりえ

タレント、日本語検定委員会 審議委員

1986年9月29日、鳥取県境港市生まれ。2009年、専修大学文学部日本語日本文学科卒業後、日本テレビにアナウンサーとして入社。2016年1月末に退社し、タレントに転身。現在は、タレント、ラジオパーソナリティ、ナレーター、MC、スポーツキャスター、ライターなど幅広く活動中。また、アナウンススクールとSNS・セルフプロデュースについての講師も務める。2019年、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程1年制コース修了。
2021年7月14日には「知らなきゃ恥ずかしい!? 日本語ドリル」(祥伝社黄金文庫)を上梓。