その日本語、相手を不快にします

日本中,知らない人はいないというほどの銀行から電話がかかってきました。若い男性行員の声です。

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「わたくし,○○銀行○○支店の○○と申しますが,川本様でいらっしゃいますか」
「さようですが」
「実は,奥様から申し付かりました書類,あした,送らさせていただきますので,よろしくお願いいたします」

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さすが大手銀行の行員らしく言葉遣いがしっかりしています。

「川本様でいらっしゃいますか」は当然としても,「奥様から申し付かリました書類」という言い方などなかなかのものです。

ところが,「あした,送らさせていただきます」の部分で大減点となります。

改まった場面では,「きょう」は「ほんじつ」,「きのう」は「さくじつ」,「あした」は「みょうにち」 と言いますが,この行員はついうっかり「あした」を使ったのでしょう。しかし「送らさせていただきます」は,いただけません。

いつぞや,ある企業の研修会で,「先生,なぜ〈寄らさせていただきます〉はいけないんですか」と質問されたことがあります。これは,口語の文法の知識がほんの少々あればすぐ分かることです。助動詞に「せる・させる」のあることはどなたでもご存じでしょう。いわゆる「使役の助動詞」です。

「せる」は,「送る・寄る」のような五段活用の動詞について「送らせる・寄らせる」に,サ行変格活用の動詞「する」に付いて「させる」となり,「させる」は,上一段活用動詞「見る」に付いて「見させる」,下一段活用動詞「捨てる」に付いて「捨てさせる」,カ行変格活用動詞「来る」に付いて「来させる」となります。

したがって,「送らさせる・寄らさせる」は日本語のきまりから逸脱していることになります。世にいう「さ入れ言葉」ですが,こればかりは黙認するわけにはいきません。これを平気で使っていると,相手を不快にするどころか,相手から軽蔑されてしまいます。

いくら文法嫌いのあなたでも,最低限の勉強はしておきましょう。

川本 信幹

著書に「日本語 鵜の目鷹の目烏の目」、「みがこう,あなたの日本語力」(以上、東京書籍)、「生きるための日本語力」(明治書院)など。2011年11月逝去

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