その日本語、相手を不快にします

先だってNHKの番組で「させていただきます」という表現を、謙譲または丁重の気持ちをより強くしようとしたものとして認めるような解説をしていました。

もともと「させる」は「せる」とともに使役の助動詞とされ、今日では、許容・放任の意味も持つと説明されています。今日話題にした「させていただきます」についても、最新の国語辞典には「自分の行為が相手の許容のうちにあるという、へりくだった遠慮がちな気持ちを表す。しばしば相手に配慮しながら、自分の一方的な行動や意向を伝えるのに使われる」(明鏡国語辞典)と説明されています。

「先日の企画書は、本日三時までに届けさせていただきます」といった言い方がこれに当たります。

ところが、突然電話がかかってきて「選ばれたあなた様にお電話させていただいておりますが……」などと言うのは、こちらが、選ばれることを許容したわけではありませんから、甚だ不愉快な感じを抱き、受話器を置いてしまうことになります。

このように「させていただく」を付けさえすれば、謙譲の気持ちが相手にストレートに伝わるかと言うと、そうでもありません。かえって、相手に不快感を抱かせる場合もあるのです。過剰な謙譲表現を使うと卑屈になって相手に好印象を持たれない場合もあります。

ビジネスの世界にいると多様な相手と言葉を交わす必要がありますから、尊敬表現にしても謙譲表現にしてもさまざまな形を使えなければなりません。「説明する」を例にして謙譲表現を挙げてみましょう。

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・ご説明する
・ご説明します
・説明いたします
・ご説明いたします
・説明させていただく
・ご説明させていただきます
・説明申し上げる
・ご説明申し上げます

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同じ職場で使うにも、これらを使い分けると円滑なコミュニケーションが成り立ちます。皆さんも普段よく使う動詞を例にしてシミュレーションを試みてください。

くれぐれも申し上げておきますが、「させていただく」は上一段・下一段動詞につくので、五段活用の動詞に付けて「飲まさせていただきます」「言わさせていただきます」などと言ってはいけません。

川本 信幹

著書に「日本語 鵜の目鷹の目烏の目」、「みがこう,あなたの日本語力」(以上、東京書籍)、「生きるための日本語力」(明治書院)など。2011年11月逝去

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