その日本語、相手を不快にします

第四回目の「『的』の多用は語彙不足の象徴」と題して書いた文章の中で「部分」という言葉の使い方に少しだけ触れました。 先日、読者の方から直接お手紙で「『部分』の使い方についてもう少し詳しく説明してください」というご要望をいただきました。 たまたま、テレビのインタビューでこちらが呆れるほど「部分」を安売りした発言がありましたので、それを筆録してありました。今回はそれを材料にして、ご要望へのお答えに代えます。

私が筆録したのは、次のような発言です。

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【只今ご質問いただきました、商品の値下げ販売の①部分につきましては、当社でも内部で意見の一致しない②部分もございますので、当社と小売店連合会側と検討いたし、協議がまとまった③部分で発表させていただきます。当社の対応の④部分で、至らない⑤部分がございましたらご容赦いただきたいと存じます。】

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傍線を付け、番号を入れたら、なんだか試験問題のようになりましたが、こうして文字化してみますと、随分見苦しいでしょう。そこであなたに挑戦していただきます。この五つの「部分」という言葉をすべて他の単語に置き換えてみてください。

さて、以下に私の答案を掲げます。
もっとも、あなたの答案がこれと全く同じである必要はありません。

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【只今ご質問いただきました、商品の値下げ販売の①問題につきましては、当社でも内部で意見の一致しない②点もございますので、当社と小売店連合会側と検討いたし、協議がまとまった③段階で発表させていただきます。当社の対応の④仕方で、至らない⑤点がございましたらご容赦いただきたいと存じます。】

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最近はテレビなどに出る人たちが流行に乗り遅れまいとしきりに「部分」を使いますが、本来の意味は「全体を小分けにした一つ」(新明解国語辞典)ですから、インタビュ―の発言者は相当無理な使い方をしているわけです。

「部分」を全く使わないですむところを「部分」一語で済ませるのは どういうことでしょうか。一つは、文脈の中で最適な言葉を使えるほどの語彙力がないこと、もう一つは、言語感覚(言葉に対する感覚)が鈍磨していることでしょう。あなたは大丈夫ですか。

川本 信幹

著書に「日本語 鵜の目鷹の目烏の目」、「みがこう,あなたの日本語力」(以上、東京書籍)、「生きるための日本語力」(明治書院)など。2011年11月逝去

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