その日本語、相手を不快にします

こちらが出不精になると、金もないのに銀行の営業の方がしきりに顔をお見せになる。顔見知りの方だと、むげに玄関払いを食わせるわけにもいかないか ら、粗茶一杯分のお付き合いくらいはすることになる。

同じ営業でも、ベテランならば、あまり気に障る言葉遣いをする方はないが、若い方の中には、手帳一ページが埋まるほどおもしろい話題を置いて行かれる場合がある。

その一つに「先程も申し上げましたように」がある。

頭のよく回転する営業部の方にとって、老齢の客はよほど頼りなく見えるのであろうか、十分程度の面談中、三回も四回もこの言葉を発する人がいる。言っている本人は、単なる確認のつもりかも知れないが、客によっては、「私はそんなにぼけてはいないぞ」と不愉快に思うかも知れない。

そんな言葉を発するくらいなら、初めから必要な印刷物を広げて、重要個所に赤線を引きながら説明するとか、数字を丸で囲むとかすればいいのである。

近年、さすがにご縁がなくなったが、かつて生命保険の勧誘に見える方の中に、この言葉をやたらと使う方があった。

支社ナンバーワンの営業成績を上げていると評判の勧誘員の女性に、「あなたは、こういう言葉を勧誘中に使いますか」と聞いてみたことがある。 「後で無意味な確認をしなくてもいいように、話題ごとに、項目ごとに丁寧に説明し、その都度質問を受けるようにしています」というのがその方の返答であった。

人によっては、相手が言う「先程申し上げましたように」という言葉の裏に、自分の聞き取り能力、理解力、認識力に対する不信感が隠されているように感じるものである。したがって、この言葉は、客の勧誘、自社製品の説明会、社内でのプロジェクトの説明などの場面では、できるだけ使わないようにすることが肝要である。特に上司に対して報告や説明をする場合は、要注意である。

「そんなことは、改めて言われなくてももう分かっているよ」
「くどいくどい。説明は一回ですむようにしろ」

などと叱られるのが落ちである。

職種のいかんにかかわらず「先程申し上げましたように」を使わない確認表現を工夫しよう。

川本 信幹

著書に「日本語 鵜の目鷹の目烏の目」、「みがこう,あなたの日本語力」(以上、東京書籍)、「生きるための日本語力」(明治書院)など。2011年11月逝去

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