その日本語、相手を不快にします

初めに、眉に唾を付けて聞いていただくような例を挙げます。かつてある国会議員の大臣就任祝賀会に参加したときの話です。

さて、最初に司会者の言葉です。
「ただいまから、○○先生の○○大臣ご就任の祝賀会を開きたいと思います」

司会者は続けます。
「早速でございますが、幹事を代表して、○○先生に開会のお言葉をいただきたいと思います」

プロの司会者の由でしたが、この「~と思います」には驚きました。 同じ派閥の国会議員である「幹事」代表の挨拶の末尾も司会者につられたように、「~開催の経緯をご報告したいと思います」ときます。 来賓の挨拶でも「~お祝いを申し上げたいと思います」「~祈念申し上げたいと思います」と、「~と思います」の連発です。

上に挙げた「と思います」はすべて意志を示す「たい」と併用されていますから無駄な言葉です。「いただきます」「申し上げます」の形でいいのです。どうしても使うなら、「と存じます」と謙譲の形で言うべきです。

プライベートな場面では「と思います」を使ってもさほど問題は起こりませんが、仕事の上では細かい配慮が必要です。

営業部のミーティングで、部長が、「では、わが社の方針が間違っていたと言うのかね」と声を荒げました。 「いえ、間違っていたとは思いませんが」と部下の答えです。

「思いませんがとは、はっきりしないじゃないか」と部長に突っ込まれて部下はへどもどします。 こういう場合は、「会社の方針は間違っていません」とか「会社の方針が間違っています」と明確に発言するべきでしょう。それを冷静に受け止められない部長は失格です。

逆に、「思う・思います」の曖昧さを上手に利用することができます。

「それは断るべきだと思う」と言えば、「断らない」を選択する余地を相手に残していることになります。 「たぶん大丈夫だと思いますが」と言って、相手にこれはダメだと感じさせることもできます。もっとも、相手にそう言われ、上司に「大丈夫だと思います」と報告して大恥をかいた人もいます。

「思う・思います」を上手に使えるかどうかは、ひとえに使い手の言語感覚にかかっていると言うべきでしょう。

川本 信幹

著書に「日本語 鵜の目鷹の目烏の目」、「みがこう,あなたの日本語力」(以上、東京書籍)、「生きるための日本語力」(明治書院)など。2011年11月逝去

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