その日本語、相手を不快にします

ある銀行に預けた預金通帳が、予定の日になっても届きません。
問い合わせの電話をすると、受け手に代わって出た若い担当者が、次のように答えたのです。

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「申し訳ございません。ソッコーでお届けします」

「ソッコーとは、恐れ入りますね。あまり慌てて事故を起こさないようにしてくださいね」

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私は思わず、そのように忠告して電話を切りました。

この若い行員も、銀行に採用されてから、あるいは入行してから新人研修を受け、敬語の使い方をはじめ業務上の言葉遣いについて勉強しているはずです。
にもかかわらず「ソッコーでお届けします」です。客からの督促の電話を受けて、しまったと思ったのでしょう。そこで思わず「ソッコーで」という若者言葉が飛び出したのでしょう。

学のある方、豊かな語彙を持っている方なら、国語辞典に「即行(すぐに行う)」という言葉のあることをご存じで、それを使っているのかと解釈してくださるでしょう。

ところが、この「ソッコー」は、知る人ぞ知る、バスケットボールやサッカーなどで使われる「速攻(相手が守りを固めないうちに急いで攻める)」からきたもので、「すぐに」「急いで」「至急」という意味で使われているのです。

普通の大人は使いませんし、ビジネスの世界にいる若者も改まった場面では使いません。いや、改まった場面では当然避けるべき言葉なのです。

やがてやって来たその行員に、嫌がられるのを承知の上で、次のように注意しました。

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「あなたがさっき使った『ソッコーで』という言葉は、あくまで若い人の仲間内の言葉ですから、お客相手には使わないほうがいいですよ。改まった場面では『ただちに』がいいでしょうね」

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若い行員は恐縮して帰りましたが、その後、彼の言葉遣いはダイジョーブでしょうか。

この、「すぐに・ただちに」と言う意味で用いる「速攻で」は、一般の国語辞典には認知されていません。
そう言えば、今までほとんどの国語辞典に認知されなくて、近年『広辞苑・第六版』にやっと取り上げられた言葉に「直帰」があります。これもビジネス界の仲間言葉ですから業界外の方にはあまり使わないほうがよいでしょう。

川本 信幹

著書に「日本語 鵜の目鷹の目烏の目」、「みがこう,あなたの日本語力」(以上、東京書籍)、「生きるための日本語力」(明治書院)など。2011年11月逝去

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