その日本語、相手を不快にします

政治家にものを頼まれた経験のある方、陳情においでなった方なら、議員の先生や秘書の方々が、しばしば口にされる次の言葉が何を意味しているかよくご存じでしょう。

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①お預かりします
②しかと承りました
③勉強させていただきます
④考えさせていただきます
⑤検討させていただきます

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これらは政治家が口にするかぎり一般の常識的な解釈をしてはいけないのです。

①②は、「預かるだけ、承るだけで何もできませんよ」という意味。③④は「それについて勉強させて(考えさせて)いただきますが、何もできませんよ」という意味。実際は何もしないことが多いのです。⑤も「検討はするけれどもお役には立てませんよ」という意味を含みます。

要するに、こういう言葉が政治家の口から出たら、これはもう脈がないなと思わなければいけないのです。

これが政治の世界を離れると、いささか事情が変わります。

例えば、市民が市役所に対して市政上の問題提起をした場合、市当局が市民に分かる言葉で明確な判断を下さないと大問題に発展することがあります。

ビジネスの世界で互いの損得にかかわる場合は、いっそう慎重な言葉遣いの配慮が必要です。交渉の相手、取引の相手が、政治家やその秘書のように相手の言葉の裏を読むことにたけた人ばかりとは限らないからです。

例えば、相手が見積書を持参した場合は、ただ「お預かりしました」だけでは言葉が足りません。「確かにお預かりしました。上に上げまして判断・方向が出ましたら直ちにご連絡申し上げます」と言えば、相手は安心して帰ります。

「検討させていただきます」も、自分が考えても無理だと思われる場合は、「検討させていただきますが、ご期待に添えないこともございますから、その際はご容赦願います」くらいのことは言っておきたいものです。

検討に時間のかかりそうな場合は、「恐れ入りますが、一週間ばかりご猶予をいただけますか」などの言葉を加えることを忘れてはなりません。

腹芸のはやらない時代です。意を尽くすには、言葉を尽くす必要があります。ビジネスの世界に生きるためには言葉の勉強が肝要です。

川本 信幹

著書に「日本語 鵜の目鷹の目烏の目」、「みがこう,あなたの日本語力」(以上、東京書籍)、「生きるための日本語力」(明治書院)など。2011年11月逝去

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