その日本語、相手を不快にします

会議で議論をしているとき、あるいは商談をしているとき、自分の発言のすぐ後に、相手から「お言葉ですが」と言われると、ほとんどの場合あまりいい気持はしない。すぐその後に自分の言ったことに対する反論が述べられるのではないか、間違いを指摘されるのではないかと予測されるからである。

「お言葉ですが」は、敬語としては合理的な表現であるが、使う場所・場面によって相手に不快感を与える恐れもある。 部長に対して「お言葉ですが」を使った若い社員が、後で課長に呼ばれ、次のように言われたという話を聞いたことがある。

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「部長はできた人だから、君の言い分を黙って聞いてくれたが、いきなり『お言葉ですが』とやってはいけない。」

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では、どう言えばいいのでしょうかと質問したら、課長は、自分で勉強したまえと宿題にしたというのである。
その社員は考えあぐねて、課内の先輩社員に質問してみた。その先輩の答えを紹介しよう。

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「いや、ぼくも同じことをやって、当時の課長に注意されたんだ。ぼくの場合質問する先輩がいなかったので、ちょっとずるいんだけど、課長に誘われたときに、酒の勢いで課長に聞いたんだよ。課長はむしろ喜んで、教えてくれたんだ。今の課長もこちらがギブアップして尋ねると喜んで教えてくれると思うがね。

おや、前置きが長くなった。要するに、『お言葉ですが』は、一種の拒否の表現だから、上役に対してもビジネスの相手に対しても軽々しく使うなと言うことだ。相手の発言が完全に終わってから『なるほど、お話はごもっともです』と相手の話を受け止める姿勢を見せる。

次に、『これは、いわゆる浅知恵に類するかもしれませんが、こういう発想もありうるのではないでしょうか』と続け、相手が聴く態度を示したら、そこで初めて自分の意見を控え目に述べるというわけだ。

君の意見・発想に上司より優れた点があれば、上で検討して取り入れるだろう。今は面子で物事を決める時代でないからね。もっとも、君は若いんだから、功を急いではいけないよ」

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川本 信幹

著書に「日本語 鵜の目鷹の目烏の目」、「みがこう,あなたの日本語力」(以上、東京書籍)、「生きるための日本語力」(明治書院)など。2011年11月逝去
*この原稿は、2011年に執筆したものです。

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