その日本語、相手を不快にします

最近ある団体が実施した研修会の募集案内書を見て驚きました。なお,弁当代は自己負担とし,代金は当日回収いたします。と付記してあるのです。

どうやら,その団体が定期的に実施している研修会のようですから,この文面をかなり多くの人が見ているはずです。にもかかわらず,誰からも注意されなかったのでしょうか。

また,担当者が作成したものを上司がチェックしなかったのでしょうか。したとしても,この奇妙な言葉の使い方に気付かなかったのでしょうか。

いささか冷たい言い方をしますと,この文書を見た人の中には,不愉快に思って参加しない人もいたかもしれませんし,冷笑して,とがめるのも大人げないと思った人もいるかもしれません。

このコラムをお読みの方は「弁当代を回収とはこれいかに」というタイトルをご覧になって問題の所在を理解なさっていると思います。

そうです。問題は「回収」という言葉の使い方です。

「広辞苑」を開くと「とりもどすこと。もとへ返しおさめること」とあって「不良本を回収する」「廃品回収」が用例として挙げてあります。「明鏡国語辞典」の説明は,もう少し徹底しています。

①いったん手元から離れ(ある役割を終え)たものを,集めてもとのところに戻すこと。「答案を回収する」「人工衛星の回収に成功する」
②ある目的のもとに取り集めること。「欠陥商品を回収する」「廃品回収」「債権の回収(=取り立て)」

この二つの辞典の解説・用例を見るだけでも,前記の研修会の案内の文言がいかに不適切であるかご理解いただけるでしょう。

この研修会が内部的なものならば「当日徴収いたします」で結構ですが,外部への呼びかけならば「弁当代は各自ご負担願います。代金は当日受付で頂戴いたします」くらいのことは言わなければなりません。

まさかうちの社では,と油断なさってはいけません。若い方は,言葉の勉強を,上司に当たる方は上がってくる文書・書類などのチェックを怠ってはなりません。

川本 信幹

著書に「日本語 鵜の目鷹の目烏の目」、「みがこう,あなたの日本語力」(以上、東京書籍)、「生きるための日本語力」(明治書院)など。2011年11月逝去

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