副助詞は、後ろに来る動詞や形容詞の意味を限定する助詞です。以下では、「ぼかす」という特徴を持つ副助詞について検討します。具体的には、「ほど」「ばかり」「でも」「とか」を扱います。
依頼の場面において、ぼかすことが上品さにつながるとされる「ほど」「ばかり」を見ます。
(写真館で原板からの焼き増しを頼む場面)「いつ出来上がりますか」「明後日の午後でしたら大丈夫です」「じゃ、二枚ほどお願いします」池島は前金を払って、〈伊藤写真館〉を出た。
清水一行『風の骨』 ここでは「二枚お願いします」としてもよさそうです。別の場面として、たとえば、お肉屋さん(精肉店)で肉を注文するとき「300グラムほどください」と言えば、店の人がはかりで300グラムに近くなるよう調整しつつも、300グラムぴったりにならない場合に「ちょうどじゃないけどいい?」と客に聞いたり、「少しおまけしておくよ」とサービスしたりといったように、店側で判断する部分ができます。八百屋さん(青果商)で「リンゴ五つばかりいただけますか」と客が言い、店の人が「これ小さいから、こっちのと合わせて一つということにしておくよ」(計6個)というような場合も同様です。
したがって、「ほど」「ばかり」を使う人は、①相手側でちょうどにするかどうかの判断を行いうる状況でのみ使う人、②常に使う人、の二つに分かれます。②は、たとえば「84円切手を2枚ほどください」という使い方を含みます。この場合、おまけして3枚にするなどということがありえず、「ほど」を使っても、相手から出されるのは、ちょうどの数(ここでは2枚)に限定されます。このような、上品な印象を伴うこともある「ほど」「ばかり」を使う人は減ってきているようですから、現役で使う人に対するインタビュー調査などを急いで行う必要があります。
副助詞の「でも」は、「あしたは、久しぶりに映画でも見ようかな」または「コーヒーでも飲まない?」というように使います。「コーヒーを飲まない?」では、聞き手に選択肢がありませんが、「でも」であれば、聞き手が別の事柄を提案することが可能です。自分自身について述べる場合も、相手を勧誘する場合も、何をするか不確定の状況において、「でも」が用いられます。
後述の「とか」と異なり、確定している事柄については使われません。たとえば「とか」の場合、「サーフィン(など)をした」という過去の出来事について、「サーフィンとかした」という使い方がありますが、「でも」を用いて「サーフィンでもした」とは言いません。
「とか」は、もともとは複数の物事を例示するというのが基本的な用法でした。たとえば「サーフィンとかゴルフとかテニスとかを好んで行う」のように使います。この用法から進んで、一つの物事だけを例示するという「サーフィンとかを行う」という言い方が生じます。ほかのこともするということが話し手・聞き手の間で共有されているなら、代表例一つの例示でも問題はないとも言えます。
ところが、複数の物事が想定されていないような場合でも「とか」を使うという事例が生じました。1989年12月21日の毎日新聞(夕刊)で
さらに進んで、ほかの物事がまったく想定されない場合にも「とか」が使われるという用法が生じます。佐竹(2008、p.12)は「学校とか眠くなるじゃない」「それは関係ないと思うよ」「でも、けっこう爆睡とかしてるよ」「うん、爆睡とか、するよねえ」という女子高生の会話を取り上げ、この場合の「とか」は「発言をぼかしてあいまいにする、いわば責任逃れの効果をもっている」と述べます。「学校」や「爆睡」にほかの物事の可能性はありません。したがって、「学校は」「学校って」「爆睡してる」で間に合います。
「とか」を使う人からは、相手の提案を期待するという意見を聞くことがあります。たとえばメモをしたいときに隣にいる友達に何と聞くでしょうか。はっきりと「ペン持って(い)る?」と聞くのではなく、「ペンとか持って(い)る?」とすれば、ペンがない場合に「シャーペン(シャープペンシル)でもいい?」などの返答、「Xはないが、Yはある」という最終的に肯定形の返答をしてくれるということです。しかし、「ペン持って(い)る?」であっても、「何に使うの? シャーペンでもいい?」といった返答はしてくれるはずです。「ペン持って(い)る?→ないよ」で会話が終わるようなら、それは話し手ではなく、やさしさの足りない聞き手の側の問題ではないでしょうか。
一方、次のようなケースでは、聞き手が提案をしたら話し手に怒られそうです。ある大学生から聞いた話です。その学生はコンビニエンスストアでアルバイトをしていて、客から「お酒とかありますか」と聞かれることがよくあり、そのたびに「お酒ありますか」と言えばいいのになと不思議に思うそうです。もし「ノンアルコールビール(お茶、ジュースetc.)ならあります」と提案したらどうなるでしょうか。店員は、客から「酒が欲しいんだよ」と苦情を言われることでしょう。つまり、このような場合、聞き手からの提案を期待して「とか」を使うなどという理屈は成り立ちません。では、どうして「とか」を使うか。単に口癖になっているという可能性もありますが、その一方で、否定の回答に対する保険をかけておきたいという気持ちが話し手の側にありそうです。「お酒ありますか→ありません」では心的ショックが大きいのに対し、「お酒とかありませんか」なら、初めから酒がないことを話し手自身が見越しているという気分が出るようです。さらにぼかして「お酒とかあったりしませんか」とする言い方もあります。このように、話し手の側が自身のためにぼかす表現を使った場合、聞き手としては、何かほかの物を提案するわけにもいかず、結局のところ「お酒とかありますか-(マイナス)とか=(イコール)お酒ありますか」と解釈し、肯定・否定いずれかの回答をしなければなりません(ここでは「お酒ありますか」という、助詞を使わずに表現する、いわゆる「無助詞」の文を示しましたが、副助詞の「は」でも不自然ではない文脈です)。それは、「とか」の使用が聞き手に要らぬ負担をかけているということを意味します。
以上に見た副助詞のうち、「とか」には、いろいろな用法があり、また、いろいろな動機から使う人がいるという複雑さがあることがわかりました。整理して示すと、次のようになります。
前述したように、Bに加えてCの用法が生じたことにより、どちらの意味で使われているのか、文意があいまいになります。
筆者個人は、AおよびBの使い方をします。ただし、Bの場合は、Cとの違いを明らかにするために、「たとえば」を前後に使うなど、適宜に言い添えなどを行ったほうがよさそうだと、この文章を書いたことにより、取るべき方向がクリアになってきました。
参考文献
佐竹秀雄(2008)『日本語教室Q&A』角川学芸出版
中川秀太
文学博士、日本語検定 問題作成委員
専攻は日本語学。文学博士(早稲田大学)。2017年から日本語検定の問題作成委員を務める。