日本語クリニック

 ある学生から「沈静」と「鎮静」は、どう違うのか、それらに「化」をつけるのはありかなしかと聞かれました。新聞・放送の用字用語辞典などを見ると、その扱いはまちまちです。使い分けについて、どう辞書に記せば、書き手の迷いが解消するかを考えます。

用字用語辞典の扱い

 まず、新聞・放送の用字用語辞典におけるチンセイの扱いを眺めます。それぞれ最新版の辞書であり、刊行年の順に並べます。用例や表示法は、省略・調整したところがあります。

『NHK漢字表記辞典』

沈静(自然に落ち着く)

鎮静(人為的に静める)

『記者ハンドブック 第14版』(共同通信社)

沈静〔事態がおさまった状態。「…が」に続く〕インフレが沈静する、値上げムードが沈静する、噴火が沈静した

鎮静〔落ち着かせるようにすること。「…を」に続く〕インフレを鎮静させる、景気鎮静策、鎮静剤、暴動を鎮静する

(鎮静化)→沈静化 事態が沈静化する 〔注〕「…化」は「…の状態に変える」を意味する。「鎮静」は行為を指すため、「鎮静化する」は使わない。

『新聞用語集 2022年版』(日本新聞協会)

沈静〔自然に落ち着く〕沈静化、沈静した空気、ムードが沈静

鎮静〔人為的におさめる〕インフレ心理を鎮静させる、鎮静剤、暴動を鎮静する

『用語の手引2023』(日本経済新聞社)

沈静〔自然に落ち着く、主に自動詞的用法〕インフレ・地価・物価が沈静する、沈静した空気、値上げムードが沈静

鎮静〔人為的におさめる、主に他動詞的用法〕インフレ・地価・物価を鎮静する、景気鎮静策、鎮静剤 *「沈静化、鎮静化」は内容によって使い分けるが、「化」を付けずに「○○が沈静・○○を鎮静」だけで意味は通じる。

『最新用字用語ブック 第8版』(時事通信社)

沈静〈自然に落ち着く〉インフレが沈静化、景気が沈静する、沈静した空気

鎮静〈人為的におさめる〉インフレ心理を鎮静させる、景気鎮静策、鎮静剤、反乱を鎮静する

『読売新聞用字用語の手引 第7版』

沈静〔自然に落ち着く。「~が」に続く〕インフレが沈静する、景気が沈静する、沈静した空気、値上げムードが沈静、噴火が沈静した

鎮静〔人為的に落ち着かせる。「~を」に続く〕景気鎮静策、鎮静剤、反乱を鎮静する

(鎮静化)→沈静化 デモの沈静化を図る

『朝日新聞の用語の手引 改訂第2版』

沈静〔自然に落ち着く〕インフレが沈静する、沈静化、沈静した空気、値上げムードが沈静、噴火が沈静した

鎮静〔人為的におさめる〕インフレ心理を鎮静させる、景気鎮静策、鎮静剤、暴動を鎮静する

 似たようでありながら、会社ごとに微妙に書き方が異なります。主なポイントは、サ変動詞用法、動詞の自他、使役表現、「化」のこと、です。

サ変動詞用法

 名詞に「する」がつくなら、その名詞にはサ変動詞用法があると見なすことができます。「上昇する」の「上昇」や「固定する」の「固定」は、「する」が無理なくつくので、サ変動詞として使える名詞です。「看板」や「校庭」には「する」がつかないので、単純な名詞です。「沈静・鎮静」には、どちらも「する」がつくので、「化」は原則として不要です。したがって、このことについては『用語の手引』(日本経済新聞社)の書き方が丁寧です。しかし現実には「化」をつけたくなる人もいます。それについて、「「鎮静化する」というバカ丁寧形も本来の「鎮静する」へと鎮静するのはむずかしいようだ」との指摘があります(芳賀(1980))。その当時、「鎮静化」という言い方がよく見られたということです。このように、もともとは「する」のついたことばであっても、時代を経るに従って、「~する」の用法が衰えるという現象は、ほかにも見られることです。たとえば「原因する」「結果する」という言い方は、徐々に使う人が減り、「起因する」「結果になる」などを選ぶ人が増えています。
 したがって、「化」をつけた言い方をなるべく推奨したくないのであれば、日経のように記す必要があります。用例の中に「沈静」と「沈静化」が両方ともあると、どちらを選べばよいか迷いが生じます。

動詞の自他

 「沈静する」は自動詞、「鎮静する」は他動詞です。「が」「を」がつくというふうに説明している辞書があるのは、自動詞・他動詞を使うと、その区別が難しいというユーザーがいることを考慮したものでしょう。なお、細かいことを言えば、日経の「自動詞的用法・他動詞的用法」の「的」は不要です。
 日経が示すように自動詞は「インフレが沈静する」、他動詞は「インフレを鎮静する」というように、「インフレ」という同じ名詞に対して「沈静・鎮静」をともに使うケースもあります。
 問題は、国語辞典を見ると、「鎮静」には自他両方を認め、「気分などをしずめ落ち着けること。はげしく動いていた状態がしずまること」(『新潮現代国語辞典〈第2版〉』)のように説明する辞書が珍しくないことです。この辞書には「インフレが鎮静する」という用例が載り、「沈静」には「空気が沈静する」の用例が載ります。つまり、「空気が沈静」の場合は使い分けに悩むことがないものの、「インフレが~」の場合は、「沈静・鎮静」どちらも使いうるということになります。しかし、マスメディアなどでは、両方ともOKということでは書き手が判断に迷うため、自動詞の場合は、前に来る名詞の種類を問わず「沈静」を使います。すると、同じ名詞に対して自他の表現を用いるならば、「インフレが沈静する」と「インフレを鎮静する」のようにせざるをえません。もしかすると、「空気が沈静する」のみ「沈静」を使い、それ以外の用法は自他問わず「鎮静する」としてもよかったのかもしれません。
 「沈静」の使用範囲を「空気が~」などに狭めるという方法が現実にはとりにくいのであれば、「鎮静」は他動詞に限定し、自動詞には使わないというふうに統一するよりほかありません。

使役表現

 「鎮静」が自動詞の用法を持っていたことが「させる」の使用に関係しています。「鎮静」が純粋に他動詞であるなら「インフレを鎮静する」で十分であり、「インフレを鎮静させる」とする必要はないはずです。しかし「鎮静させる」という用例が載る以上は、その「鎮静」は、自動詞用法の「鎮静」に「させる」をつけて使役化したものと解釈する必要があります。その結果、「~を」においては、「~を鎮静する」と「~を鎮静させる」の両方が出現します。他動詞として割り切るなら、「鎮静させる」は、使わない言い方として示したほうがよさそうです。たとえば明らかに自動詞用法しかない「安定」なら「物価が安定する→物価を安定させる」となり、「物価を安定する」とは言いません。

「化」のこと

 「化」について、『記者ハンドブック』(共同通信社)では「…の状態に変える」を意味する」と説明していますが、「化」には自他の制限はありません。「~になる」という自動詞の場合も「~にする」という他動詞の場合もあります。「社会が不安定化する」なら自動詞、「窓口を一本化する」なら他動詞です。
 「沈静・鎮静」は、サ変動詞として使えるため、「化」は要りません。しかし、各社で「鎮静化」ではなく「沈静化」を優先的に示す傾向があるということは、「沈静」のほうには、動作の意味が感じられないため、「化」によってそれを補う意図があると言えます。他方、「鎮静」のほうは、サ変用法が生きているから「化」は要らないという判断です。
 「デモのチンセイカを図る」の場合には、「沈静・鎮静」で迷う人がいるようです。これは、和語の「おさめる・おさまる」を使うと容易に判別できます。「デモがおさまる→デモがおさまることを図る→デモの沈静化を図る」というように捉えると、「おさまる」と同じ自動詞の「沈静化」が選びやすいということです。「おさまる」に「沈静化」の意味の「おさまり」という名詞がないため、「デモのおさまりを図る」とは言えません。そこに「沈静化」の出番があります。あえて、「鎮静」を使うなら「デモを鎮静する→デモの鎮静を図る」のように「化」をつけずに済ますことが可能です。これは、他動詞用法しか持たない「爆破」を「工場を爆破する→工場の爆破を図る」のように使うのと同様です。

記述を終えて

 「沈静」は、古くは形容動詞として「沈静な」のように使われていたようです。私個人としては、その使い方を維持し、動作には自他ともに「鎮静」を使うほうが便利なように感じます。
 「沈~」の語に「沈下」「沈着」「沈没」「沈殿」など「おさまる」の意味の語が多く、他方、「鎮~」の語に「鎮圧」「鎮火」「鎮護」「鎮定」など「おさめる」の意味の語が多いことから、「鎮~」における自動詞用法に対する抵抗が広がったと見るべきかもしれません。

参考文献
芳賀綏(1980)「ダイタイとダイガエ」『月刊言語』9-4

中川秀太

文学博士、日本ウェルネススポーツ大学スポーツプロモーション学部 准教授、日本語検定 問題作成委員

専攻は日本語学。文学博士(早稲田大学)。2017年から日本語検定の問題作成委員を務める。

最近の研究
「現代日本語のジェネレーションギャップ」(2024年、武蔵野書院)
「日本語検定と校閲との接点を探る」(2024年、日本経済新聞社の勉強会における発表)
「同訓異字の「使」と「遣」」(2024年、毎日新聞の「毎日ことばplus」への寄稿)
「「わがこと」「じぶんごと」「ひとごと」「よそごと」「たにんごと」」(『東京女子大学日本文学』121、2025年)
「肯定・否定を表す対義的な応答詞の使用によって生じる社会的な分断」(『大正大学研究紀要』110、2025年)
「きちんとことばを伝えるための10章」(2025年、共著、朝倉書店)
「「お間違いありませんか」に間違いはありませんか」(2026年、東京書籍)など。

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