日本語クリニック

 前回に引き続き、東京の駅名のアクセントについて考えていきます。

3モーラの駅名のアクセント

 3モーラの場合、「平板型と頭高型のいずれか」(『新明解日本語アクセント辞典〈第2版〉』、以下『新明解アク』)という傾向があります。辞書の例は、平板型が渋谷、箱根であり、頭高型の例は名古屋、成田です。それから、『新明解アク』には「東京人がよく使う東京及び近接の地名には以下のように平板型が多い」という注記も載ります。例は、江戸、銀座、浅草、品川があがっています。たとえば、ギンザ ̄のように発音するという意味です。なお、「但し、三拍語の中には以下のように頭高型も」という記述もあり、ガモ(巣鴨)とヨダ(千代田)が例示されています。
 以上のほかに平板型の例を追加すると、たとえば青砥、入谷、上野、王子、小岩、小菅、狛江、台場、調布、築地、豊洲、中野、練馬、蓮根、広尾、馬込、町田、瑞江、三鷹、用賀、四ツ谷、代々木などがあげられます。頭高型の例は、綾瀬、稲城、恵比寿、青梅、葛西、春日、蒲田、喜多見、田無、田端、田町、福生、目黒、湯島などです。
 3モーラ語については、以上のパターンでほぼ網羅できます。ただし、三ノ輪については、例外的にミワと発音します。しかし、近年は、ミノワ ̄と発音する人が増えてきています。
 また、大阪など関西圏から来た人の場合、王子、渋谷、日比谷などの駅名を頭高型で発音しがちという傾向も存在します。王子の頭高型は、関西にある王子がージであるから、それを東京の地名にも当てはめたというものです。
 目白は、以前はメジロ ̄でしたが、今はジロに変化しています。巣鴨は、時折、スガモ ̄と発音されることがあります。主流派である平板型と頭高型のあいだで、語によっては、アクセントのゆれが生じうることがわかります。グロ(目黒)との共通性を求めた可能性がある目白を除くと、おおむね、頭高型→平板型への変化のほうが出やすいという印象です。

4モーラの駅名のアクセント

 4モーラ語には、○○○型が多いものの、平板型もいくらか存在するという傾向があります(『新明解アク』)。辞書には、金沢や高松が例示されています。東京の駅名で○○○型になる駅名には、赤坂、阿佐ヶ谷、池上、板橋、市ヶ谷、亀有、蔵前、久が原、小平、柴崎、成増などがあります。ほかの地域から、または、ほかの県から原宿に訪れる人が多くなったためか、かつてハジュクと発音されていた原宿は、現在ではハラジュク ̄と発音する人が圧倒的になっています(田中2010)。アクセントがわからないときに、ひとまず使っておけば安心という特徴を持つのが平板型アクセントです。
 ○○○○ ̄つまり平板型が一般的な駅名には昭島、有明、梅島、江戸川、大久保、大塚、荻窪、奥多摩、梶原、京橋、五反田、五反野、汐留、東雲、柴又、世田谷、月島、等々力などがあります。
 これらの優勢なパターンに対して、わずかながら○○○つまり頭高型の駅名もあります。大崎、落合、 神泉 ( しんせん ) 、新橋、 大門 ( だいもん ) など、落合以外は、2モーラ目に長音やはつ音(ンのオト)が来るという共通点があります。これらのオトつまり特殊拍と呼ばれる部分には、標準語ではアクセント核が置きにくく、前後にずれるのが普通です。落合の場合、語頭のオチはともかく、アイのほうに母音の連続があります。シン+バ+シ、ダイ+モンのように、発音する際に4よりも短いと感じられる感覚が落合の場合には、オ+チ+アイのアイで起こった結果の頭高型であるように感じます。それから、落合には、伝統的なチアイに対して、新しいアクセントとしてオアイがあるとされますが(『新明解アク』)、それが現在、一般化したとも言えません。地名としては、そう頻繁にメディアなどに出てくることはありませんが、名字としては珍しくないことがチアイの保たれている理由の一つになっている可能性が否定できません。
 すでに頭高型から○○○への変化が進みきったと見られる場所もあります。浜町や市ヶ谷が該当例です。マチョー、チガヤからハチョー、イガヤへと推移しました。

「~橋」の駅名

 平板型と○バシが主流です(○の数は語によって変わります)。前者は、水道橋、日本橋、東日本橋などです。水道橋については、隣の飯田橋がイーダバシであることから、スイドーバシと発音する人が増えています。後者の例は、赤羽橋、曙橋、浅草橋、面影橋などです。テンクーバシ(天空橋)のように、バの直前に長音があるために、その前にアクセント核がずれた語もあります。

「~町(ちょう)」の駅名

 平板型と○チョーが主流です。平板型の例は、神谷町、茅場町、永田町などです。人形町は、隣のコデンマチョー(小伝馬町)の影響を受けたのか、ニンギョーチョーと発音する人が多くなっています。
 ○チョーの例には、岩本町、小伝馬町、末広町などがあります。

「~寺(じ)」の駅名

 2モーラ目に特殊拍が来る語が多く、頭高型が保たれている語が多いという特徴があります。たとえば、高円寺、豪徳寺、万願寺、祐天寺などです。2モーラ目に特殊拍がない「~寺」には、国分寺、護国寺など平板型の語が見られます。吉祥寺に関しては、「基本アクセント型」のキチジョージが9.7%、尾高型のキチジョージが0.9%なのに対して、キチジョージ ̄が87.0%という調査結果が報告されています(田中2010)。
 どうも、若者のまちと呼ばれるところには、平板型が多くなるという傾向があるようです。渋谷はもともと平板型で揺るがない、原宿や吉祥寺は新たに平板型が多くなったというふうにです。もっとも、長いと平板型で発音しにくくなるため、オモテサンドー(表参道)がオモテサンドー ̄に変化することは今のところ「は」なさそうです。

略語の駅名

 秋葉原は、省略するとアキバ ̄になります。同様に、池袋はブクロ ̄、三軒茶屋はサンチャ ̄、西荻窪→ニシオギ ̄、二子玉川(ふたこたまがわ)→ニコタマ ̄、新百合ヶ丘→シンユリ ̄、というように、おおむね平板型で発音します。吉祥寺→ジョージと有楽町→ラクチョーについては、略語のアクセントが確認できていません。有力な情報をお持ちの方を探しています。
 以上に対して、高田馬場→ババの場合、単独の「馬場」という語があり、それがバと発音されるため、略語としての「馬場」も同じというのが標準的です(「高田馬場」は「高田」にある「馬場」のことです)。しかしながら、高田馬場の略語という意識が強くなり、馬に乗る場所としての「馬場」が意識されなくなると、バ ̄のほうが出やすくなります。現在、高田馬場の町を歩いていて耳にするのはバ ̄がほとんどです。

「~駅」の場合

 最後に「~駅」のアクセントを確認します。ウエノエキ、シナガワエキ、キチジョージエキなど、後項つまり後ろ側の語の直前でオトが下がるのが基本です。トーキョーエキやトラノモンエキなど、エの前に特殊なオトがある場合は、その一つ前に下がる場所がずれます。2020年にできた高輪ゲートウェイ駅の場合、単独ではタカナワゲートウェイ、「駅」がついてもタカナワゲートウェイエキでオトの下がる場所に変わりはありません。ウェイ(ウェー、ウエーと発音されることも)の部分には母音の連続があるため、前のウェのほうに位置がずれます(イの直後で下げる人も皆無ではありません)。
 なお、シナガワエキ→シナガワ ̄やシブヤエキ→シブヤ ̄の場合は、「~駅」のほうから単独の場合のアクセントを導いても正解にたどりつけますが(ナガワとブヤが高いという意味で。エキの直前でオトが下がるという特徴は無視されています)、ユシマエキ→ユシマ ̄やタマチエキ→タマチ ̄の場合、正解のシマ、マチにはたどりつけません。ご注意ください。

参考文献
田中ゆかり(2010)『首都圏における言語動態の研究』笠間書院
中川秀太(2024)『現代日本語のジェネレーションギャップ』武蔵野書院

中川秀太

文学博士、日本ウェルネススポーツ大学スポーツプロモーション学部 准教授、日本語検定 問題作成委員

専攻は日本語学。文学博士(早稲田大学)。2017年から日本語検定の問題作成委員を務める。

最近の研究
「現代日本語のジェネレーションギャップ」(2024年、武蔵野書院)
「日本語検定と校閲との接点を探る」(2024年、日本経済新聞社の勉強会における発表)
「同訓異字の「使」と「遣」」(2024年、毎日新聞の「毎日ことばplus」への寄稿)
「「わがこと」「じぶんごと」「ひとごと」「よそごと」「たにんごと」」(『東京女子大学日本文学』121、2025年)
「肯定・否定を表す対義的な応答詞の使用によって生じる社会的な分断」(『大正大学研究紀要』110、2025年)
「きちんとことばを伝えるための10章」(2025年、共著、朝倉書店)
「「お間違いありませんか」に間違いはありませんか」(2026年、東京書籍)
「大正・昭和前期の日本語」(2026年、共著、朝倉書店)
「標準語と方言」(『東京女子大学日本文学』122、2026年)
「敵と味方の言語学」(『大正大学研究紀要』111、2026年)
「語種と造語と借用と」(『日本語学』525、2026年)

E-mail:shutagawa@gmail.com

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